第57回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-1] ポスター:がん 1

2023年11月10日(金) 11:00 〜 12:00 ポスター会場 (展示棟)

[PF-1-4] 頭頸部がん患者における頸部郭清術後の僧帽筋麻痺に影響を及ぼす因子について

鈴木 諒子, 加藤 るみ子, 田尻 寿子, 田尻 和英, 伏屋 洋志 (静岡県立静岡がんセンターリハビリテーション科)

【序論】
頸部郭清術を伴う頭頸部がん術後の患者では副神経を温存していても僧帽筋麻痺を呈することがある.僧帽筋麻痺の因子として,郭清レベルはレベル2と5が報告されている(Peter, 2019).しかし,僧帽筋麻痺に関わるその他の背景因子についての報告は少ない.
【目的】
副神経を温存した頸部郭清術後の頭頸部がん患者(以下,頭頸部がん患者)の僧帽筋麻痺に影響を及ぼす背景因子を調査すること.
【方法】
2021年1月~6月に当院で手術療法を受け,周術期にリハビリテーション科を受診した頭頸部がん患者を診療録から抽出した.このうち,術後に肩下垂,安静時の肩甲骨外側偏位,肩外転時肩甲骨内転・上方回旋の消失のいずれかを有するものを僧帽筋麻痺と定義し,僧帽筋麻痺の出現頻度を腫瘍部位別に算出した.また,対象患者を僧帽筋麻痺がある群(以下,麻痺有群)と僧帽筋麻痺が無い群(以下,麻痺無群)に分類し,調査項目を群間比較した.調査項目は,患者背景(年齢,性別,腫瘍部位,術前Body Mass Index(kg/m2)(以下,BMI),肥満度 ),手術内容(郭清領域数(1領域/複数領域)),再建の有無,手術時間,出血量),術前治療歴(放射線療法,化学療法)とした.肥満度は,BMI18.5kg/m未満をやせ,BMI18.5~25.0 kg/m2未満を標準,25.0 kg/m2以上を肥満とした.統計処理は,群間の調査項目の差について,連続変数にはStudentのt検定を用いて,2値変数にはカイ2乗検定(Fisherの直接法),順序変数にはMann-WhitneyのU検定を用いて,有意水準を5%未満とした.本研究にあたり人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に則り,当院の倫理審査委員会の承認を得た.
【結果】
対象患者は70例で,麻痺有群55例,麻痺無群15例であった.腫瘍部位別における僧帽筋麻痺の出現頻度は,咽頭がん95.0%(19例/20例中),口腔がん84.6%(22例/26例中),喉頭がん80.0%(4例/5例中),甲状腺がん50.0%(6例/12例中)であった.郭清領域数は,両群,複数領域郭清(麻痺有群53例(96.3%),麻痺無群13例(86.7%))が多かった(p=0.79).BMIは,麻痺有群21.6±3.6kg/m2,麻痺無群25.8±5.6kg/m2で麻痺有群の方が有意に低値だった(p<0.001).肥満度(麻痺有群:麻痺無群)は,やせ12例(21.8%):1例(6.7%),標準32例(58.2%):7例(46.7%),肥満11例(20.0%):7例(46.7%)で,その内訳には両群間で有意差が認められた(p=0.0299).
【考察】
頭頸部がん患者は術後に高頻度で僧帽筋麻痺を呈すると報告されており,本研究も概ね同様の結果であった.僧帽筋麻痺により肩甲帯周囲筋群のバランスが崩れたまま肩関節を動かすと,誤用による肩峰下インピンジメント症候群が生じる可能性がある.そのため,術後早期から二次的合併症や日常生活動作障害を予防する必要があり,頭頸部がん患者に対する作業療法の必要性が改めて示された.また,麻痺有群はやせの割合が高かった.頭頸部がんは,治療開始前から低栄養状態の患者が多いと報告されている.低栄養は食事量や体力,認知機能の低下を生じるリスクが高く,頭頸部がん患者は,治療前から低栄養による症状を合併している可能性が推測された.そのため,頭頸部がん患者には,手術前から上肢機能と併行して身体機能・精神機能や日常生活面に対する評価や介入を実施していく必要があると考えた.