第57回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-11] ポスター:がん 11

Sat. Nov 11, 2023 3:10 PM - 4:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PF-11-4] 脳腫瘍患者とその家族ための生活支援ツールの開発

櫻井 卓郎1, 梅崎 成子2, 阿瀬 寛幸3, 村川 雄一朗4, 角田 明子5 (1.国立がん研究センター中央病院, 2.東京大学医学部附属病院, 3.順天堂大学医学部附属順天堂医院, 4.京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻, 5.東京女子医科大学)

【背景・目的】
悪性脳腫瘍の中で最も多いグリオーマは発生部位により臨床症状が多様であり,発症後急速に症状が悪化するため,患者及び家族の負担が大きい.そのため入院中,退院後を問わず個々の患者と家族のニーズに合わせた多職種によるサポートが必要である.しかしグリオーマ患者と家族が必要とする支援ニーズは明らかになっておらず,十分な支援が行われていないのが実情である.そこで,我々は,グリオーマ患者とその家族の疑問をまとめ,回答とともに小冊子(以下,生活支援ツール)を作成したので報告する.
【方法】
作成期間は2020年5月~2022年11月,グリオーマ患者のリハビリテーション(以下リハ)と看護それぞれ10年以上臨床経験がある8名(作業療法士5名,看護師2名,理学療法士1名)で実施した.最初に「これまでグリオーマ患者さんとその家族からよく尋ねられたこと」について自由に記載し,次に収集した全文章に対して回答者8名でブレインストーミングを行った.続けて,内容をグループ化してカテゴリー分類を行った.抽出されたカテゴリー分類からクエスチョン形式に対応した回答を作成した.クエスチョンにがん薬物療法,栄養管理,社会資源,失語症の項目が含まれていたため,グリオーマの臨床経験がある薬剤師,管理栄養士,MSW,言語聴覚士,それぞれ1名に回答文作成を依頼した.執筆内容について5回の相互レビューとリバイスを行い,患者家族会であるNPO法人脳腫瘍ネットワーク(JBTA)にコメントを頂き文章表現を修正した.なお今回は終末期に関する項目は除外した.
【結果】
内容は1)基礎知識,2)運動麻痺,3)高次脳機能障害,4)退院後の生活とリハ,5)家屋改修と福祉用具,6)治療に関する症状と生活,7)社会復帰の7つの領域に分類された.具体的内容は,中枢神経系の障害について,運動麻痺と失語症に対する自主トレーニングと生活の工夫(自助具等の紹介),高次脳機能障害についての解説,障害がない場合の筋力強化練習,介護と痙攣に関すること,移動方法と住宅改修,復学復職,利用できる社会資源などであった.また,コラムでは患者交流会,患者会についても紹介した.本生活支援ツールは,32のクエスチョン+コラム,A4サイズフルカラーで紙媒体及びPDFで完成となった.
【考察】
リハ専門職と看護師に寄せられるグリオーマ患者からの質問内容が明らかとなった.自助具の紹介や高次脳機能障害の解説は脳血管障害のリハに類する既知の情報も応用可能であるが,今回の結果から患者自身がその情報を探すことは困難なことが示唆された.医療従事者が「脳腫瘍は脳血管障害のリハの経験があれば応用可能できる」と考えたとしても,患者家族にとっては全く別の疾患である.情報提供を行う際には「グリオーマ患者さんのための,あるいは脳腫瘍患者さんのための」と対象を明確にする必要がある.グリオーマの治療関連では,抗がん剤治療中の運動,放射線治療と脱毛に関するアピアランスの問題も含んでおり多職種での支援が必要である.
【今後】
完成版PDFファイルを関連団体のホームページに掲載を依頼し,無償で配布する.そして当生活支援ツールの効果を検証するアンケート調査を実施する予定である.