第57回日本作業療法学会

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ポスター

がん

[PF-12] ポスター:がん 12

Sat. Nov 11, 2023 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PF-12-3] 複合的作業療法により早期復職に至った膠芽腫摘出後の上肢麻痺例

城之下 唯子1, 河村 健太郎2, 衛藤 誠二2, 夏目 恵介1, 下堂薗 恵2 (1.鹿児島大学病院リハビリテーション部, 2.鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 リハビリテーション医学)

【はじめに】
 膠芽腫はWHO分類でグレード4に位置付けられる悪性度の高い脳腫瘍であり,標準的治療として手術や放射線治療,薬物療法などの集学的治療が選択される.しかし生存期間が限られるため,最大のパフォーマンスを維持するための積極的なリハビリテーション治療や就業支援(永根, 2019),QOLへの配慮(沖田, 2014)が重要とされる.一方,膠芽腫摘出術後に麻痺が残存することがあるが,上肢麻運動麻痺の程度や物品操作能力,使用頻度に焦点を当て,治療を進めた報告は少ない.今回,膠芽腫摘出後の左上肢麻痺例に対して,運動麻痺や巧緻性,麻痺手の使いやすさなどの評価に基づき,術後早期から積極的に複合的な作業療法を行い職場復帰に至った症例を経験したので報告する.
【症例】
 患者は60歳代,男性.ADLは自立し,就業していた.X−1ヶ月頃より左顔面神経麻痺が出現し,当院にて膠芽腫と診断され,開頭腫瘍摘出術を受けた.頭部造影MRIでは右中心前回から前頭回を主座とする造影効果を伴う腫瘤性病変を認めた.術翌日より作業療法を開始,HDS-Rは28点,触覚低下はなく,母指探し試験はⅠ度,Brunnstrom recovery stageは左上肢Ⅴ,手指Ⅴ,下肢Ⅵだった.術翌日に歩行器歩行は見守りで可能であったが,左手でコップを持つことができず,両手でパンやジャムの袋が開けられなかった.本報告は倫理指針を遵守し,書面にて本人の同意を得ている.発表に際して開示すべき利益相反はない.
【治療プログラム】
 術後翌日からベッドサイドで早期離床と促通反復療法を中心に介入し,術後6日よりリハビリテーション室にて課題指向型訓練と入院生活で可能な麻痺手の実用的動作の指導や自室での自主練習指導など,複合的な作業療法を追加して実施した.評価は術後6日(初期),16日(最終),58日(退院後)に実施した.介入は1日に20分または40分で,入院中12回だった.術後21日に退院し,通院での放射線治療となり,作業療法の継続は難しいため,退院時に実生活での左上肢使用の促進方法,自主訓練を伝達した.
【結果】
 初期/最終/退院後のFugl-Meyer Assessment上肢項目は58/60/63点,Box and Block Testは26/43/56個,Nine Hole Peg Testは128/32/24秒,握力は10/23/25kg,Motor Activity LogのAmount of Useは1.87/3.5/5,Quality of Movementは1.5/3.5/4.87だった.最終では左手の使用機会は向上したが,使いにくさは残存した.退院後は日常生活の中で術前と変わらない左手の使用が可能で,応用的動作での意識付けができていた.術後約3ヶ月で段階的な就労が再開された.
【考察】
 術直後から運動麻痺は軽度であったが,上肢近位の動作が緩慢で,「つかみ」や「つまみ」の低下が実用動作に影響した.齊藤ら(2021)は,補足運動野と運動前野に広がる脳腫瘍摘出例が,18日後にSTEFが向上,術後1ヶ月で左手の使いにくさが軽減したことを報告している.本症例は麻痺や巧緻性の改善は齊藤らの報告と同様の傾向だった.一方,日常生活における麻痺手の使用頻度および主観的な使いやすさを測るMALでは,術後約2ヶ月で術前に近い状況に改善したことが本症例では示された.膠芽腫例では生命予後の観点から,治療後早期のQOL回復が望まれるため,上肢の運動麻痺評価に加え,巧緻性や使いやすさの評価に基づく作業療法は有用であると思われた.本報告は, 脳浮腫改善や自然回復, 病巣部位の影響も考えられるが,術後早期からの詳細な評価を含む複合的作業療法が,麻痺側上肢の実生活における使用頻度向上や復職に繋がったものと考えた.