第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-12] ポスター:発達障害 12

2023年11月11日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示棟)

[PI-12-6] 保育所における乳幼児の食具使用状況の調査報告

安井 宏 (目白大学/保健医療学部作業療法学科)

【はじめに】
日本にて生まれ育つと,当然のように箸を使って食事することが文化とされている.箸食は中国,朝鮮,台湾,ベトナム等の国で使用されているが,箸だけで食事を行うのは日本のみとの報告がある.一方で,現在は箸食中心の日本人だがサンドイッチや肉まんを手で食べることに抵抗を感じる人は少ない.ボーダレス,複雑化してきた食生活の変化によって,それぞれの対応範囲が変わることは十分に考えられる.との報告もある.今回,保育所から適切な食具の使用時期について検討してほしいとの依頼から,本調査を行うに至った.
【目的】
手の発達に基づいた,食具の「適切な開始時期」を検討するため,幼児の食具の使用状況を調査・分析し,手の発達年齢に合わせた食事・食具の指導を行うための資料とする.
【方法】
1.調査の内容:調査項目は先行研究を参考に食具使用状況の独自の調査用紙を作成した.調査項目は,①「手づかみ食べ,介助が主体で食事を行う」,②「スプーン,フォークの使用で食事ができる」,③「箸 (補助箸・スプーン併用)を使用して食事ができる」,④「箸のみの使用で食事ができる」,を目視にて観察し実数を調査した.
2.調査の対象・時期:調査時期は2022年8月1日~8月31日とした.調査対象は,埼玉県K市の公立保育所,全18施設に通う2歳児,3歳児,4歳児,5歳児.特別支援保育の対象になっていない乳児,幼児クラスに在籍している定型発達している児童の全数1384名を調査した.調査はK市に依頼した.各保育所から調査に関して疑義が生じた場合,筆者が訪問し直接対応を行った.調査データはK市によって個人を特定できる内容を全て除外してから提供されている.調査は学術誌「作業療法」 論文投稿に関する倫理指針を遵守して行った.
【結果】
1.食具の使用状況:2歳児では255名のうち,「手づかみ食べ,介助が主体で食事を行う」児童は5%,「スプーン,フォークの使用で食事ができる」児童は95%であった.3歳児では340名のうち,「手づかみ食べ,介助が主体で食事を行う」児童は1%,「スプーン,フォークの使用で食事ができる」児童は47%,「箸 (補助箸・スプーン併用)を使用して食事ができる」児童は32%,「箸のみの使用で食事ができる」児童は20%であった.4歳児では386名のうち,「手づかみ食べ,介助が主体で食事を行う」児童は1%,「スプーン,フォークの使用で食事ができる」児童は8%,「箸 (補助箸・スプーン併用)を使用して食事ができる」児童は18%,「箸のみの使用で食事ができる」児童は74%であった.5歳児では386名のうち,「スプーン,フォークの使用で食事ができる」児童は3%,「箸 (補助箸・スプーン併用)を使用して食事ができる」児童は7%,「箸のみの使用で食事ができる」児童は90%であった.
2.男女の差:幼児(3~5歳児)においては,男女の差があった.箸の使用は女児に高い傾向があり,反対に男児はスプーン・フォークの使用している率が高かった.
【考察】
今回の結果を基に考えれば,2歳児の段階で食具を持って自立して食事行為を行っている児童がほとんどであった.先行研究よりも早い段階で食事の自立を促されているものと考える.その一方で,先行研究では実際には箸を持つことは可能でも,伝統型での箸の持ち方をしている幼児は21.9%との報告があった.本研究ではデータとして箸の持ち方まで特定できていないものの,筆者が保育所巡回相談時に確認している中では,やはり握り箸で食事をしている幼児が多い.今後の調査で,箸の持ち方を調査し,適切な箸の持ち方指導の時期を検討する資料としたい.