第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

発達障害

[PI-9] ポスター:発達障害 9

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PI-9-5] 「おおきなかぶ」を用いて集団活動への参加を促した一例

手塚 泰史, 酒井 康年 (社会福祉法人からしだね うめだ・あけぼの学園)

【はじめに】幼児期に友達と関わることは,社会性やコミュニケーション能力を育むため重要な活動である.しかし,支援が必要な児には,友達と関わりたい気持ちがありながらも,やりとりの難しさ,遊びを共有することの難しさにより,友達との遊びに希望したようには参加することができない児がいる.友達とのやりとりを促すだけでは,やりとりや遊びに発展しないことや,声はかけられるが,その後の遊びが持続しないこともある.今回,障害児通所支援施設における集団活動場面において,言葉かけを促すのではなく,作業療法士が活動に変化を加えたことにより,対象児の役割が確立され,集団遊びに参加することができた一例を報告する.なお,本報告は対象児及び保護者より同意を得ている.
【事例紹介】4 歳男児.発達遅滞.大人に対しての表出が増え,身振りや発声を用いて表現する姿が見られるが,子ども同士でのやりとりは少なく,伝えたいことがあっても,大人やカーテンの後ろに隠れてしまう姿が見られている.報告場面は,年度初回のグループであり,ホールにて複数人の子ども達が,揺れ遊具に乗る,または揺らすといった活動を行っていた.本児が活動したことのある場所であったが,顔見知りの友達はおらず,友達同士のやりとりが増え始めた所に遅刻して登園をしてきた.大人が他児と一緒に遊ぶように声掛けで誘うが,手を横に振り,参加しないというような表出をした一方で,友達の遊ぶ様子を気にしている姿が見られていた.
【介入経過】対象児の様子から,現在の活動や友達の様子について興味はあるが,自分から関わる手立てを見つけることが難しいのではないかと考えたため,参加方法の検討を行った.まず,揺れ遊具の活動では乗る側と揺らす側があり,本児の運動面の様子を考慮し,揺らす側での参加を狙いとした.次に,揺らす側で参加するために,言葉だけでなく,道具や役割を用いることで本児の行動を引き出すことができるのではないかと考えた.また,集団活動場面では友達との活動の共有を狙いとしているため,複数人で参加することができ,子ども達がイメージを持ちやすい活動の検討を行った.そこで,子ども達が見聞きしている可能性の高い「おおきなかぶ」を再現することを目的とし,状況をイメージしやすいように揺れ遊具に長縄を結んだ.
【結果】活動が具体的になったことで,本児の役割が明確になり,集団で行われていた遊びに参加することができた.また,本児だけでなく他児も長縄を引く行為に参加したことで,活動に参加するだけでなく,友達との活動の共有場面や,やりとり場面を作ることができた.その後少しずつ本児から友達が行っている遊びに参加しに行くことが増えていった.
【考察】集団の中では,子どもだけで役割を自ら作り出すことが難しいことがあり,その影響により友達とのやりとりをする機会を喪失してしまうことで,社会性やコミュニケーション能力を育む機会の喪失に繋がる可能性があると考える.今回,作業療法士が対象児の参加しやすい活動を検討し,設定に対し具体的なアレンジを加えたことにより,即その場での参加を促し,結果として友達との交流場面を実現できたと考える.計画や打ち合わせではカバーできない部分も,場を共有しているからこそ,即時的に対応が可能であった.集団活動場面に参画する作業療法士は,本報告のように実際的な場面において子ども一人一人の参加状況を把握した上で,参加を妨げている背景を把握し,活動の調整を現実的に行うことで集団への参加を促し,社会性やコミュニケーション能力を育むことを狙いとした支援に寄与することができると考える.