第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[PK-4] ポスター:認知障害(高次脳機能障害を含む) 4

2023年11月10日(金) 15:00 〜 16:00 ポスター会場 (展示棟)

[PK-4-6] 運動学習の定量化によるMCIの判別モデルの検討

戸嶋 和也1,2, 一寸木 佑2, 高戸 了2, 田丸 司1, 森田 良文2 (1.偕行会リハビリテーション病院リハビリテーション部, 2.名古屋工業大学大学院)

【はじめに】Mild Cognitive Impairment(MCI)は認知症の前駆段階と定義される.MCIは運動学習の遅延および低下が報告されており,この結果は記憶や注意の脳内プロセスを理解することに活用される.運動学習は,感覚予測誤差と報酬予測誤差の2つの誤差情報から学習することを基本原理としている.本研究の目的は2つの予測誤差から学習を定量化する手法の提案である.そして提案手法の結果からMCIを判別する可能性を調査した.我々の仮説は,報酬予測誤差における学習はMCIで低下し,これを評価変数とすることでMCIを判別できると考える.本研究は倫理審査の承認,JSPS科研費(22H03973)の助成を得て実施した.【方法】対象者は65歳以上の地域在住高齢者102名とし,Petersenの定義に基づきClinical Dementia Ratingで0.5から1.0をMCIとした42名,そして健常高齢者(Normal Cognitive : NC)60名とした.運動学習の定量化は,我々の開発したiWakkaを用いた.iWakkaは把握デバイスとiPad (Apple Inc)から構成される.課題は目標線を追従する視覚追従課題とし,課題線は振幅と周波数の異なる正弦波形の合成波とした.課題線は2つの連続課題となり,前半は感覚予測誤差としランダム課題(Ran),後半は報酬予測誤差としリピート課題(Rep)とした.課題ごと,1試行ごとに目標値と実測値との差の平均絶対誤差を算出し,それをAdjustability for grasping force(AGF)とした.5試行を1 blockとし,30秒の休憩を挟み10 blockを繰り返した.課題ごと,blockごとのAGFの平均値から以下の6つの評価変数を抽出した.10 blockに対する1 blockとの差を百分率として,ランダム課題をLRRan,リピート課題をLRRep,10個のblockのAFGの標準偏差(SD)として,ランダム課題をSDRan,リピート課題をSDRep,10blockの平均AGFをランダム課題をAGFRan,リピート課題をAGFRepとして抽出した.【分析】最初に6つの評価変数をMCIとNCで比較するためMann–WhitneyのU検定を用いた.次に,MCI判別モデルをSupport Vector Machine(SVM)を用いて構築した.SVMの目的変数はMCIの判別,説明変数にはMCIとNCで統計的に有意差を認めた評価変数を入力した.なお,全データは5分割し,4つを学習データ,1つをテストデータとした.学習データから構築したモデルはテストデータによって評価され,MCI判別の精度をaccuracy,モデル適合率はF1scoreを用いた.【結果】MCIで有意に低下を認めた評価変数は,LRRep(p<0.01),SDRep(p<0.01),AGFRep(p<0.01)であり報酬予測誤差による学習はMCIで低下することが示された.この3つの評価変数からMCI判別モデルをSVMにて構築した.結果はaccuracyが0.85,F1scoreが0.83と高い精度を認めた.【考察】提案手法から得られた報酬予測誤差による学習はMCIで低下する傾向を示した.報酬予測誤差はMedial temporal lobe(MTL)の活動により支えられている.MCIはMTLの活動が低下することが示されており,報酬予測誤差からの学習の低下はMCIを示す特微量となる可能性が示唆された.