第57回日本作業療法学会

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[PQ-5] ポスター:管理運営 5

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PQ-5-1] 当院作業療法士がSF-8を用いてQOL評価をできるようになるために

川嶋 遥, 松下 彩奈 (柏厚生総合病院リハビリテーション科)

【はじめに】日本作業療法協会は,作業療法における作業を人の日常生活に関わる全ての諸活動と定義している.作業療法士(以下OT)がその諸活動を対象とする仕事と考えると諸活動から成り立つ生活の質(Qualityof life:以下QOL)の評価は重要である.しかし当院OT部門ではQOLの評価は実施できていなかった.そのため2022年度より健康関連QOLの評価指標であるSF-8をOTのアウトカム指標として使用し始めた.今回はSF-8をOT全員が使用できるようになるための方法を探る.
【目的】当院作業療法部門においてSF-8を積極的に使用できているとアンケートで回答したOTがSF-8を臨床で使用できている要因を明らかにする.尚本研究は当院倫理審査委員会にて承認を得た.
【方法】対象者は2023年5~10月当院に在籍し本研究への参加に同意した経験年数1~6年目(平均3.6年目)のOT5名であり調査期間は同年5月~2023年2月であった.2022年5,10月に作業療法部門内でSF-8実施状況アンケートを実施し10月の回答で「SF‐8を積極的に使用できている」と選択した4名と使用率の少ない急性期病棟においても再評価を数回実施できていた1名に対しヒアリングを実施.ヒアリング項目はコルブの経験学習モデル(1984),バンデューラの自己効力感(1986),フェスティンガーの集団凝集性(1950),ロックとレイサムの目標設定理論(1968)に基づき7問作成した.そしてポジティブな回答の得られた4問の回答内容について,使用率向上に有用であった要因をSCAT(Steps for Coding and Theorization)(大谷,2011)を用いて分析した.
【結果】SCATのストーリーラインを抜粋して記載する.《経験学習:①省察》回復・改善した部分の効果判定が有効的に実施できる.クライエント(以下CL)の健康に対する想い等目に見えない部分の把握整理がしやすい.《経験学習:②概念化・持論化》簡便さによる意欲の向上を認めた.入職時からの利用など習慣化されているOTはハードルを感じることなく利用できている.《経験学習:③試行》使いやすさなど利点への気づきあり.質問以外の情報へと話題が展開しその方らしさの情報が得られやすい.《自己効力感:直接の成功体験》CLとの課題のすり合わせや目標立案に寄与した.活用方法の理解やCLのモチベーション向上によりOTの自己有能感が向上した.《目標設定理論:活動の魅力》既存の方法で評価の困難さを感じていたOT等使用感の良好であったOTはこの目標に価値を見出せている.
【考察】コルブは具体的な経験・省察的観察・抽象的概念化・能動的実験の4つで構成される経験学習サイクルを提唱している.対象のOTはSF-8使用(経験)後,改善点の効果判定や見えない想いの把握のしやすさ,簡便さによる意欲の向上などポジティブな省察・概念化・持論化がなされ再度使用しよう(試行)というサイクルに至り学習が促進されたため使用を継続できたと考える.
 バンデューラは自ら学ぶ動機づけの1つに自己効力感があり特に強い影響は直接の成功体験であるとしている.SF-8の活用が課題共有・目標立案などの作業療法プロセスの支援となったこと,CLのモチベーション向上等に寄与したことが成功体験となり繰り返しの使用の動機付けになったと考える.
 これらの結果よりSF-8をOT全体で使えるようにするためにはまず経験が必要であり試行期間等を設けることは有効と考えた.また経験から効果的に概念化や成功体験につなげていくために直接的なフィードバックの場を設け,改善した点に関して深堀りしながら要因分析をしてもらい作業療法の結果として意識付けをするような関わりが望ましいのではないかと考えた.具体的な方法について今後さらに検討していきたい.