第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

がん

[PF-1] ポスター:がん 1

2024年11月9日(土) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PF-1-3] がん患者が持つセクシュアリティと性差の問題について

松浦 温子 (JA厚生連 吉野川医療センター リハビリテーション科)

<序論>
 国民の2人に1人がんに罹患しており,がん患者は増加の一途を辿っている.急性期からターミナル期に至るまで,がんに関わることがOTの分野でも増加している.今回はがん患者において,外科手術や化学療法などの治療に伴い生じるセクシュアリティと性差の問題について考察し,OTとしての関りについて検討する.
<目的>
 がん患者の外科手術・化学療法等による身体的侵襲がどのようなセクシュアリティと性差の問題が生じるのか抽出し考察する.がん患者におけるセクシュアリティと性差の問題にOT の関わるべき意義,患者のQOL向上への一助としての提言を行う.
<方法>
 50歳代・女性・配偶者あり・乳がん全摘出術施行後,化学療法が導入された1例.40代・女性・配偶者あり・子宮全摘術施行後,化学療法導入された2例に対し,非構造化面接の形式にてセクシュアリティと性差の問題についての聞き取りを行った.尚,本研究は患者の承認を得て実施した.
<結果>
 がん告知を受け,その後の外科手術により自分の身体の一部を失うボディイメージの変化による喪失感,女性性の象徴を失い女性としての自信喪失,家族での役割変化による自責の念・喪失感,治療後の疼痛や副作用が多岐にわたり,身体状態の変化を周囲の人が受容できない,また様々な要因からの性欲の減退,それに伴う配偶者との性生活の障害という問題がみられていた.
3症例共に「生物学的性別:sex」と「社会学的性別:gender」,セクシュアリティならびに性差での問題が生じていた.
<考察>
 がん患者が告知を受けてから様々な治療段階において生じる問題は,女性としてのセクシュアリティの喪失感「生物学的性別:sex」であり,家族での役割変化での自責の念・喪失感「社会学的性別:gender」と考えられる.様々な問題点は両側面を有し,複合的に生活上での困難さを生じていることが明確になった.
 また,女性はがん治療による重篤な副作用のリスクが高く,炎症性免疫反応や薬物の代謝にも性差があることを理解し,性別を考慮した個別化された治療アプローチの必要性が重要であると考えられる.性差の観点から,女性には精神的な支援や理解してくれる人の存在,話ができる人といった情緒的サポートが有効であり,「自己肯定感」の上昇によりセクシュアリティと性差の問題も解決に繋がり,特に女性にはOTとして精神的なアプローチが重要と考えられる.
 セクシュアリティと性差という視点で問題を考えると,女性だけではなく男性のライフステージにおいても様々な生理学的変化が起こり,心理・社会的な状態から影響を受けることがある.したがって,男性についても,同様の視点で問題を把握していくことは重要であることは言うまでもない.対象となる症例にセクシュアリティや性差の問題が潜んでいる可能性を念頭において関り,「生物学的性別:sex」の観点だけでなく「社会学的性別:gender」に配慮しつつ,問題点の解決へのアプローチを行い,QOLの向上を望むことが可能だと考える.リハビリテーションの世界においても性差医療の視点が,さらに必要になってくるのではないだろうか.
 今後,今回の研究結果を踏まえ,様々ながん患者においてセクシュアリティと性差の問題の特性・アプローチを継続的に調査していきたいと考える.