第58回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

高齢期

[PJ-1] ポスター:高齢期 1

2024年11月9日(土) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PJ-1-3] 廃用症候群において排尿コントロール獲得が自宅退院率を向上させる

近藤 諒一, 入江 雅子, 末吉 謙斗, 竹内 優子, 沖波 武 (医療法人公仁会 明石仁十病院)

【序論】
回復期リハビリテーション(以下,回復期)病棟では,自宅から入院した患者が自宅に戻る為の医療やリハビリテーション(以下,リハ)が求められる.回復期病院において機能的自立度評価表(以下,FIM)のトイレ移乗および更衣(下半身)の得点が自宅退院に影響を与える事が明らかになっている(岡本,2012).しかし,廃用症候群患者における自宅退院の可否に影響を与える因子については明らかになっていない.
【目的】
回復期病棟での廃用症候群患者において,どのFIM運動項目が自宅退院に影響を与えるかについて検討する事で,効率的な自宅退院率の向上に繋げる事を目的とした.
【方法】
前方視的観察研究を行った.対象は2020年7月から2022年6月までに当院回復期病棟に入院した患者の内,75歳以上の廃用症候群としてリハ依頼のあった者とした.病状悪化で転院,転棟した者は除外とした.退院先によって,自宅退院群とサービス付き高齢者向け住宅を含めた非自宅退院群に分けた.入院時の主病名,既往歴,性別,入院前の生活状況(独居/夫婦世帯/2世代以上同居),退院時のおむつ使用の有無,FIM運動各項目,ミニメンタルステート検査(以下,MMSE)合計点について単変量解析,多変量解析で評価した.カットオフ値は,FIM運動項目は身体介入が必要でない5点以上を良好群,MMSEは24点以上を良好群と設定した.本研究は当院倫理委員会の承認を受けて実施した.
【結果】
対象の年齢は中央値84歳(76-98),男性10例,女性17例であった.主病名は内部障害19例,整形外科疾患6例,神経内科疾患2例であった.入院期間は中央値56日(22-85)であった.入院前生活状況として独居が7例,夫婦世帯が4例,2世代以上同居が16例であった.退院先は,自宅が20例,非自宅が7例であった.自宅退院群と非自宅退院群を比較した単変量解析において,排尿コントロール(p=0.0237),排便コントロール(p=0.0087),移乗(ベッド・椅子・車椅子)(p=0.00026),移乗(トイレ)(p=0.00144),階段(p=0.0261)の項目で2群間に有意差を認めた.また,MMSE(p=0.155),同居家族の有無(p=0.333)には有意差を認めなかった.有意差のあった5項目を組み込んで多変量解析を行った結果,排尿コントロールが5点以上である事が自宅退院群にオッズ比14(95%信頼区間1.37-143,p=0.026)で有意な影響を与えた.
【考察】
本研究の結果,回復期病棟において,廃用症候群患者の排尿コントロールを改善する事が自宅退院への支援として有効となる可能性が示唆された.理由として,高齢になると頻尿になり,排泄回数が増加し介助回数も増加する事が挙げられる.その為,身体介入不要なレベルに改善すると環境調整・ヘルパー対応で自宅退院可能になると考える.FIM排尿コントロール5点の条件は監視・準備・指示・片付けが必要,失敗が月1回未満である.4点以下では排泄・入浴の介護は体力的な負担と感じ,更衣の介助は手間を要し,介護者の介護負担感が高まる(藤田,1995).排尿コントロール不良のADLは頻回の介護を要し,家族やヘルパーの介護でも対応が不十分になる事が考えられる.本研究で得られた排尿コントロールの重要性に注目して,今後は排尿リハを積極的に行う等,排尿自立に取り組む事で自宅退院率が改善するか前方視的に検討していきたい.
【結論】
廃用症候群患者における自宅退院に向けての目標設定には,排尿コントロールの獲得が最も優先度の高い項目と示唆された.