第58回日本作業療法学会

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ポスター

教育

[PR-9] ポスター:教育 9

2024年11月10日(日) 10:30 〜 11:30 ポスター会場 (大ホール)

[PR-9-7] 精神科臨床実習におけるMTDLP活用の有用性と課題

北村 純一1,2, 上川 康友3, 泊り 由希子4, 松田 竜幸4 (1.市立室蘭総合病院 リハビリテーション科, 2.武蔵野大学大学院 人間社会研究科, 3.市立室蘭総合病院 精神科, 4.北海道千歳リハビリテーション大学 作業療法学専攻)

【はじめに】OT協会では,臨床実習での生活行為向上マネジメント(以下;MTDLP)の活用を推奨しているが,精神科臨床実習での活用は少ない.本報告の目的は,精神科臨床実習で実際にMTDLPを活用し,有用性と課題を検討することにある.なお,本報告に際し,当院倫理審査委員会の承認を受け,学生及び患者より書面にて同意を得た.
【対象と方法】大学生(20代女性 以下;学生)を対象に,MTDLP指導者認定を有する臨床教育者(以下;CE)と共に,MTDLPを用いて治療学実習(後期・8週間)を行い,介入経過をサマリーシート(A4・2枚)にまとめる.実習効果を把握するため,臨床実習の手引きのルーブリック評価表・基本的臨床技能の項目を基に評価票を作成し,「5.とてもできた」「4.少しできた」「3.どちらでもない」「2.あまりできなかった」「1.全くできなかった」の5件法で回答し,MTDLPを用いた感想も記載する.また,日本語版 PANASと一般性セルフエフィカシー尺度(以下;GSES)を用い,学生の感情と自己効力感も前後比較する.
【担当患者】A氏,60代女性,統合失調症.元来の知的な低さや人格水準の低下もあり,服薬・金銭・糖尿病管理が行えず,夫と共に入退院を繰り返していた.心身機能・活動・参加面に多くの課題を抱え,夫や多職種との協働・連携の視点も必要なため,担当患者を依頼した.
【実習経過】
1.初期評価期(1~2週):実習直前に夫と喧嘩し,夫がA氏の退院に難色を示したことで不調となった.学生は当初,対人交流面や作業遂行面を中心に評価していたが,CEと共にMTDLPを用い,A氏の希望である退院に向けた課題・強み・予後予測の検討を行い,達成可能な目標を考え,A氏との合意形成を行った(実行度3・満足度5).
2.介入実施期(3~6週):週1回のみのOT参加であったが,学生が毎日訪室し話を聴いたことで関係が築かれ,週5回休まずOTに参加するようになった.退院に向けた課題をA氏と話し合い,服薬・金銭・糖尿病管理に関する意識も高まった.
3.最終評価期(7~8週):夫は先に退院したが,直ぐに不調となり再入院した.A氏の退院の話は進まなかったが,退院に向けた課題は改善し,実行度8・満足度8に向上した.
【結果】学生の基本的臨床技能は13/25から19/25へ向上した.PANASはポジティブ尺度が27/48から34/48へ,ネガティブ尺度が24/48から15/48へと向上したが,GSESは11/16から5/16へと低下した.「サマリーが従来型よりも見やすくなった,今までで最も分かりやすく作成できた」「合意目標を考えるのが大変だった,CEの助言がなければできなかった」「関わりが難しかった」と感想が得られた.
【考察】精神科臨床実習では,CEのリーズニングが学生からは見えづらいため,可視化・言語化して説明する必要がある(毛束忠由2015).MTDLPは,対象者の情報を項目毎に整理し,リーズニングを可視化できるため,学生とCEで共有しやすくなり,理解も深まったと考えられ,基本的臨床技能・感情の各指標の向上にも繋がったことから,MTDLPは精神科臨床実習においても有用と考えられた.ただ,A氏の不調な時期と重なり,精神科の人間関係作りや対応の難しさを実感し,自己効力感は低下したと考える.MTDLPを用いた精神科臨床実習の課題として,対象者の特性上,聞き取り,予後予測,達成可能な目標の検討,合意形成,動機づけ,治療的関わり等,学生には難しい部分もあったため,診療参加型で学生に具体的に説明しながら段階的に経験してもらうことが必要と考えられた.また,学内での学習を実際の臨床の場に結びつけていけるよう,養成校とCEが連携しながら多様な事例体験の機会を作ることも重要と考えた.