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[HRE31-05] 松代群発地震に関係した深部地下水の水質再構成:CO2動的漏洩のナチュラル・アナログ研究でのシミュレーション条件整備
キーワード:CO2 地中貯留, 松代群発地震, ナチュラル・アナログ, 動的漏洩, TOUGH-FLAC, 塩分濃度
CO2地中貯留では,貯留にともない地下の間隙流体圧が上昇することで,岩盤の動的応答(貯留層・キャップロックの変形による地表面隆起,微細な破断による微小地震の発生,既存の潜在断層の再活動など)が発生したり,これらが高じて貯留CO2が漏洩することが懸念されている.このような動的現象を起こさない,貯留継続可能な地下流体圧の変化を予測する手法として注目されるのが,「岩石力学-流体流動連成シミュレーション」である.産総研ではアメリカ,ローレンス・バークレイ国立研究所が開発したTOUGH-FLAC (Rutqvist et al., 2002) を,軟岩岩盤を対象とするわが国のCO2地中貯留に適用可能とする研究を行っている (Funatsu et al., 2012).このシミュレーション研究では,CO2の地下流動と岩盤変位などのデータを必要とする.本研究ではこれらのデータとして,長野県松代地域で1965-1967年にかけて起きた「松代群発地震」とそれに伴う地盤隆起およびCO2質塩水湧出の観測データを用いている.研究手法としては,CO2地中貯留の漏洩事象に対するナチュラル・アナログ研究と言える.地中貯留に伴う地下でのCO2の流動に対しては,貯留にかかる堆積岩層を満たす地層水の塩分が,CO2の溶解を通して影響するとされる.このためCO2地中貯留のシミュレーションでは,初期条件として地質モデル内の水質流体の塩分濃度を与える必要がある.地層水の初期組成は,研究対象とする地域での深井戸の水質に基づき推定し,初期条件として与えることが出来る.加えて松代群発地震をナチュラル・アナログとするTOUGH-FLACシミュレーションでは,岩盤(地質モデル)に動的変化を起こすために塩水とCO2をモデル内に圧入する.そこで,これらについて妥当な値を設定する必要がある.松代群発地震を対象とした先行研究(Cappa et al., 2009)では,圧入塩水の塩分濃度を5mg/lと設定している.しかし対象地域の坑井水の地球化学的研究からは,群発地震に関係した初源的深部水の塩分濃度ははるかに高かったと推定されている(鬼澤・塚原,2001;吉田ほか,2002).われわれは,2010-2011年にかけて行った松代地域の調査で,深層水の影響が認められる湧水・坑井水の試料を得た.それらの水質および酸素・水素同位体比には,先行研究と共通した特徴が認められた.坑井水の酸素・水素同位体比は,同位体比の小さな側で天水線と交差し,天水線よりも緩傾斜の別の線上に落ちる.このことは坑井水の酸素・水素同位体比が,天水と,それより重い安定同位体に富む水との混合により決まることを意味する.地球化学的特性から,松代地域の深部水はマグマ起源と考えられている.坑井水の安定同位体比が乗る線の延長には,Giggenbach(1992)が提唱した”andesitic water”の領域が存在する.そこで,初源的な水の酸素・水素同位体比がandesitic waterの最小値にあると仮定し,現在得られる最も深い坑井水の同位体比から希釈率を見積もった.そのうえで,求めた希釈率とこの水の水質に基づき,初源的深部水の水質を求めた.得られた塩分濃度は,海水並みであった.同様にHCO3について推定した初期濃度から,松代シミュレーションで想定する温度・圧力条件ではCO2関連溶存種は過飽和であったと考えられる.