日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 U (ユニオン) » ユニオン

[U-09_1PM1] 海溝型巨大地震と原子力発電所

2014年5月1日(木) 14:15 〜 16:00 502 (5F)

コンビーナ:*橋本 学(京都大学防災研究所)、川勝 均(東京大学地震研究所)、金嶋 聰(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、末次 大輔(海洋研究開発機構 地球内部変動研究センター)、座長:橋本 学(京都大学防災研究所)、金嶋 聰(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

14:45 〜 15:10

[U09-02] 南海トラフ沿いの津波堆積物から考える巨大地震と原子力発電所

*岡村 眞1 (1.高知大学総合研究センター)

キーワード:巨大地震, 南海トラフ, 津波堆積物, 原子力発電所

東北地方太平洋沖地震が証明したことは、私たち地震の研究者は千年に一度の地震を「想定外」にしてしまう実力しかないということである。仙台平野を襲った貞観津波や海溝よりの地震による巨大津波の可能性などは、研究者には知られていたという事実はあったとしても、それは社会的には黙殺され、結局のところほとんどなかったに等しい。ないどころか多くの地震の研究者が、あたかも科学が地震を解明しつつあるような幻想をバラまいてきたことにより、「まさかこんなところまで津波がくるはずがない」という住民の思い込みを助長する役割を果たしたと言うこともできる。これらの事実を正しく認識しない限り、私たちは前に進むことはできない。海溝型の巨大地震は、およそ数十年から数百年の繰り返し間隔を持っていると考えられている。それが正しいのであれば、当然、千年に一度、一万年に一度という出来事もあると考えるのが常識だ。しかしながら、私たちは実際には千年に一回というレベルの知識すら十分には持ち合わせていない。私たちはこれまで南海トラフ地震による津波の履歴を明らかにするために、沿岸湖沼の津波堆積物の研究を行ってきた。その結果、ある程度大きな津波は過去六千年間にわたって三百年に一回程度の割合で繰り返し発生していること、宝永地震津波は歴史記録で言われているように千年に一度の規模の地震であったが、過去数千年間では最大とは言えないことなどを明らかにすることができた。しかしながら、私たちが地質記録から知ることができるのは、過去数千年間のおおまかな津波観でしかない。津波堆積物を研究すれば過去の記録は解明できるような風潮があるが、調査をすれば必ず成果が得られるわけではない。私たちは30以上の湖沼で調査を行ってきたが、このなかで良好な記録を得ることができたのは数例であり、率にすれば3割に満たない。私たちが研究対象としているような沿岸湖沼は、南海トラフ沿岸が過去数千年間では沈降域であることから存在しており、こういった湖沼のない仙台平野や三陸沿岸で同様の研究を行うことは不可能に近い。反対に仙台平野で行われた貞観地震の津波堆積物の分布を詳細に追うような研究は、広い平野が存在せず、津波が山まで駆け上がってしまう四国や紀伊半島の沿岸域では難しい。さらに、津波堆積物が有効に利用できるのは、最大でも、海水準が現在とほぼ等しい過去約7000年の間に限られる。地質記録から具体的にどこで何メートルの津波が来たのかを明らかにすることは困難であるし、まして次の津波がどこで何メートルになるのか、わかるはずもない。私たちは過去の履歴を知る努力を少しずつ重ねていかなければならないが、そこで得られる結果についても冷静に限界を判断する必要がある。これまで原子力発電所は絶対に事故を起こさないとされてきた。100%の安全は科学者もしくは技術者にとってはあり得ないことだが、では、原発の事故は何年に一回程度なら容認されるのか。千年に一度の地震を「想定外」にしてしまう地震の研究者が、どうして原発の安全を保障することができるのか。これまで多くの原発が地震や津波の被害を受けてこなかったのは、決して科学者が安全性を正しく審査しているからではない。単に、原発が地震や津波の被害を受けるなどということは、常識的にはめったに起こらないことだからである。めったに起こらないはずのことが、柏崎、福島と立て続けに起こったという事実は、何よりも私たちが原発の地震、津波に対する安全性をまったく評価できていないことを証明している。今回の福島の事故に対して、これまで原発の安全審査を行ってきた研究者、日本海溝の地震の研究を行ってきた研究者、そして地震の予知の予算を使用してきた研究者、誰一人として責任をとったものはいない。私たちはベストを尽くしていたが、そこまでは至らなかったのだから仕方がない、と言うことができるかもしれない。しかし、もしも次に事故が起こった場合、私たち地震の研究者は「想定外」でしたと言い訳して責任を逃れることが許されるとは思わない。私たちは千年に一度の地震に対処できなかった。あれからたった3年しかたっていないにもかかわらず、地震の研究者は原発の安全性にお墨付きを与えようとしている。税金を使って研究を行っている私たちには、分からないことがたくさんあるということを謙虚に認識するとともに、正しく説明する義務がある。