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[MIS11-07] 陸上堆積物コアを用いた別府湾海底活断層型地震発生年代の高精度復元
キーワード:津波堆積物、海底活断層、別府湾、放射性炭素年代測定、珪藻、地球化学
別府湾海底活断層の最新活動である1596年の慶長豊後地震では,別府湾沿岸地域に5–8 m程度の津波があったことが歴史記録から知られている(羽鳥,1985).また,別府湾海域で行われた音波探査とピストンコアリング調査では,断層を挟んだ両側の堆積物層厚の違いから,鬼界アカホヤ火山灰層の堆積以降に5回の断層運動が存在した可能性が示されている(例えば,島崎ほか,2000;大分県,2002;地震調査研究推進本部,2005).しかしながら,過去に発生した断層運動の詳細な発生年代やそれらが津波を伴ったか否かは明らかにされていない.本研究では,先史時代に別府湾で発生したプレート内地震と津波の発生年代をより高精度に復元することを目的として,別府湾南岸に面する沿岸湿地において古津波堆積物調査を行った.得られた堆積物コアに対しては,堆積相の観察に加えて,粒度分析や珪藻分析,ITRAXコアスキャナーを用いた化学分析から古津波堆積物層を認定し,その上位,下位の層準に含まれる種子や葉片の放射性炭素年代測定を行った.
海岸線から約170 mの地点で採取された堆積物コアの深度2.0–7.8 mは,主に有機質泥層で構成されており,その上部(深度215–217 cm)では,2760–2860 cal. yr BP,下部(深度779–780 cm)では,7670–7790 cal. yr BPという放射性炭素年代値が得られた.約5000年間に形成された有機質泥層中の深度430–433 cmと530–650 cmに認められた火山灰層は,含有する火山ガラスの屈折率から,それぞれ九重山を起源とする段原スコリア(DS)と鬼界カルデラの噴火に伴う鬼界アカホヤ火山灰(K-Ah)と同定された.約5700前に降下したと考えられる段原スコリア層の上位には,層厚1 cm程度の砂層が2枚(深度257.8–258.6 cm,315.0–316.0 cm)確認され,砂層直下の泥層から得られた年代値はそれぞれ3330–3450 cal. yr BPと4400–4530 cal. yr BPであった.また,段原スコリア層と鬼界アカホヤ火山灰の間に約6500年前の砂層(深度502.5–503.0 cm),鬼界アカホヤ火山灰層直下には層厚4 cm程度の粗粒砂層が認められた.これらの砂層は,上下の有機質泥層と明瞭な地層境界で区切られており,突発的に堆積したイベント堆積物である可能性が高い.また,上下の有機質泥層と比べて帯磁率やチタン,鉄の値が高く,ケイ素,カリウム,カルシウム,バナジウム,クロム,ストロンチウム,バリウムなどの元素が多く検出された.さらに,海生底生種であるRhaphoneis sp.などの珪藻が砂層中においてのみ出現した.これらのことは,砂層を構成する粒子が異なる堆積環境から運搬されたもので,かつそれが海浜や海底である可能性を示唆している.
本研究で採取した堆積物コア試料には,鬼界アカホヤ火山灰層の上位に少なくとも約3300–3450年前,約4400–4530年前,約6500年前に形成された古津波堆積物の可能性が高い砂層が保存されていた.別府湾沖で掘削されたコア試料から推定された海底活断層の過去の活動時期は,1596年慶長豊後地震に加えて,1700–2200年前,3600–4600年前,5300–6000年前,5800–7300年前である(地震調査研究推進本部,2005).本研究の堆積物コアにおける有機質泥層が約2800年前までしか保存されていないことを考慮すると,古津波堆積物層の枚数は,地震調査研究推進本部(2005)で示されている断層運動の回数と矛盾していない.しかしながら,活断層の推定活動時期と古津波堆積物の年代は必ずしも一致しておらず,今後慎重に検討する必要がある.
海岸線から約170 mの地点で採取された堆積物コアの深度2.0–7.8 mは,主に有機質泥層で構成されており,その上部(深度215–217 cm)では,2760–2860 cal. yr BP,下部(深度779–780 cm)では,7670–7790 cal. yr BPという放射性炭素年代値が得られた.約5000年間に形成された有機質泥層中の深度430–433 cmと530–650 cmに認められた火山灰層は,含有する火山ガラスの屈折率から,それぞれ九重山を起源とする段原スコリア(DS)と鬼界カルデラの噴火に伴う鬼界アカホヤ火山灰(K-Ah)と同定された.約5700前に降下したと考えられる段原スコリア層の上位には,層厚1 cm程度の砂層が2枚(深度257.8–258.6 cm,315.0–316.0 cm)確認され,砂層直下の泥層から得られた年代値はそれぞれ3330–3450 cal. yr BPと4400–4530 cal. yr BPであった.また,段原スコリア層と鬼界アカホヤ火山灰の間に約6500年前の砂層(深度502.5–503.0 cm),鬼界アカホヤ火山灰層直下には層厚4 cm程度の粗粒砂層が認められた.これらの砂層は,上下の有機質泥層と明瞭な地層境界で区切られており,突発的に堆積したイベント堆積物である可能性が高い.また,上下の有機質泥層と比べて帯磁率やチタン,鉄の値が高く,ケイ素,カリウム,カルシウム,バナジウム,クロム,ストロンチウム,バリウムなどの元素が多く検出された.さらに,海生底生種であるRhaphoneis sp.などの珪藻が砂層中においてのみ出現した.これらのことは,砂層を構成する粒子が異なる堆積環境から運搬されたもので,かつそれが海浜や海底である可能性を示唆している.
本研究で採取した堆積物コア試料には,鬼界アカホヤ火山灰層の上位に少なくとも約3300–3450年前,約4400–4530年前,約6500年前に形成された古津波堆積物の可能性が高い砂層が保存されていた.別府湾沖で掘削されたコア試料から推定された海底活断層の過去の活動時期は,1596年慶長豊後地震に加えて,1700–2200年前,3600–4600年前,5300–6000年前,5800–7300年前である(地震調査研究推進本部,2005).本研究の堆積物コアにおける有機質泥層が約2800年前までしか保存されていないことを考慮すると,古津波堆積物層の枚数は,地震調査研究推進本部(2005)で示されている断層運動の回数と矛盾していない.しかしながら,活断層の推定活動時期と古津波堆積物の年代は必ずしも一致しておらず,今後慎重に検討する必要がある.