15:30 〜 16:45
[MIS11-P10] 南相馬市小高区井田川干拓地における津波堆積物の特徴
キーワード:津波堆積物、869年貞観地震、東北地方の歴史津波
日本海溝沿いの東北地方沿岸では,2011年東北地方太平洋沖地震以前から,過去に巨大津波による被害をたびたび受けていたことが報告されている.なかでも869年貞観地震の津波被害は東北地方の広範囲に亘り,その規模は少なくともMw 8.4以上であったと推測されている(Sawai et al. 2012).仙台平野における津波堆積物調査の結果,869年貞観地震津波と2011年東北地方太平洋沖地震津波の間にあるイベント層準は1454年享徳地震あるいは1611年慶長地震に伴う津波によるものと推測されており,これらの平均再来間隔は約500~600年と結論づけられている(Sawai et al. 2015).
1454年享徳地震あるいは1611年慶長地震,869年貞観地震に対応する津波堆積物の検出を目的として,福島県南相馬市小高区井田川干拓地で津波堆積物調査を実施した.本調査地は1921年に干拓事業が開始されるまで汽水~淡水の内湾もしくは潟湖で,さらに周囲に大規模な河川がないことから陸からの堆積物供給は限定的で堆積物の保存状態は良いと推測される.調査地周辺では,過去に後藤・青山 (2005),及川ほか (2011),太田・保柳 (2014)によって調査が行われているが,いずれも調査点数や分析数は限定的であった.本研究では,海岸から0.6-2.7 kmの11地点で試料長2.0-2.5 mの計13の柱状試料を採取し,蛍光X線分析による元素分析,粒度分析および放射性炭素年代測定を用いて各イベント層準の特徴とその形成時期について報告する.
本調査地の定常的な堆積物は内湾性の泥質シルト(中央粒径15 μm)で,その中に側方連続性の高い5枚のイベント層準(EV1-EV5)が認められた(五島ほか, 2015,楠本ほか, 2015).これらのイベント層準は主に粗~細粒砂から構成され,化学的風化に弱い元素(Na,K,Ca)や強い元素(Si, Fe, Al)の酸化物が定常的な堆積物に対して富む傾向が認められた.しかしながら最上位のイベント層準(EV1)とそれより約10cm下位の定常的な堆積物中には,一般に肥料として用いられる五酸化二リンの増加および海洋性堆積物中に多く含まれる硫黄の酸化物の減少が認められ,他のイベント層準とは異なる傾向を示した.これは水田として干拓が始まったことや湾の閉鎖を示唆している可能性がある.
次に,各イベント層準毎に堆積学的な特徴を調べたところ,ほぼ全てのイベント層準が下位の地層との層理面で明瞭な浸食面を持ち,マッドクラストや上方細粒化,ラミナを伴う重鉱物の密集層といった津波堆積物に多く認められる堆積構造を示した.さらに粒度分析の結果から,イベント堆積物の中央粒径はいずれも0.28 mmであった.上位から二番目のイベント層準(EV2)は,他のイベント層準の粒度分布と異なり,中粒砂とシルトにそれぞれピークを持つバイモーダル分布を示した.イベント層準の供給源が同じであることを仮定すると,他のイベント層準より相対的に含砂率の低いEV2は,イベントそのものの規模が小さかった可能性がある.
最後に,放射性炭素年代測定を用いて各イベント層準の堆積年代(Oxcalプログラムによる推定範囲(2σ))を求めた結果,EV2はAD1520-AD1920,EV3-EV4はAD130-AD1440,EV5は140BC-AD130に形成されたものと推定された.本調査地のイベント層準を仙台平野における津波堆積物調査の結果と比較すると,EV2は1454年享徳地震あるいは1611年慶長地震,EV3-EV4は869年貞観地震,EV5はそれ以前の津波堆積物とそれぞれ対比される可能性がある.
謝辞:本研究を遂行する上で用いた放射性炭素年代測定の原理やその前処理過程について,東京大学総合研究博物館放射性炭素年代測定室の米田穣先生,大森研究員,尾嵜研究員およびその他研究員の方々に多大なご協力とご支援をいただきました.ここに深く感謝いたします.
1454年享徳地震あるいは1611年慶長地震,869年貞観地震に対応する津波堆積物の検出を目的として,福島県南相馬市小高区井田川干拓地で津波堆積物調査を実施した.本調査地は1921年に干拓事業が開始されるまで汽水~淡水の内湾もしくは潟湖で,さらに周囲に大規模な河川がないことから陸からの堆積物供給は限定的で堆積物の保存状態は良いと推測される.調査地周辺では,過去に後藤・青山 (2005),及川ほか (2011),太田・保柳 (2014)によって調査が行われているが,いずれも調査点数や分析数は限定的であった.本研究では,海岸から0.6-2.7 kmの11地点で試料長2.0-2.5 mの計13の柱状試料を採取し,蛍光X線分析による元素分析,粒度分析および放射性炭素年代測定を用いて各イベント層準の特徴とその形成時期について報告する.
本調査地の定常的な堆積物は内湾性の泥質シルト(中央粒径15 μm)で,その中に側方連続性の高い5枚のイベント層準(EV1-EV5)が認められた(五島ほか, 2015,楠本ほか, 2015).これらのイベント層準は主に粗~細粒砂から構成され,化学的風化に弱い元素(Na,K,Ca)や強い元素(Si, Fe, Al)の酸化物が定常的な堆積物に対して富む傾向が認められた.しかしながら最上位のイベント層準(EV1)とそれより約10cm下位の定常的な堆積物中には,一般に肥料として用いられる五酸化二リンの増加および海洋性堆積物中に多く含まれる硫黄の酸化物の減少が認められ,他のイベント層準とは異なる傾向を示した.これは水田として干拓が始まったことや湾の閉鎖を示唆している可能性がある.
次に,各イベント層準毎に堆積学的な特徴を調べたところ,ほぼ全てのイベント層準が下位の地層との層理面で明瞭な浸食面を持ち,マッドクラストや上方細粒化,ラミナを伴う重鉱物の密集層といった津波堆積物に多く認められる堆積構造を示した.さらに粒度分析の結果から,イベント堆積物の中央粒径はいずれも0.28 mmであった.上位から二番目のイベント層準(EV2)は,他のイベント層準の粒度分布と異なり,中粒砂とシルトにそれぞれピークを持つバイモーダル分布を示した.イベント層準の供給源が同じであることを仮定すると,他のイベント層準より相対的に含砂率の低いEV2は,イベントそのものの規模が小さかった可能性がある.
最後に,放射性炭素年代測定を用いて各イベント層準の堆積年代(Oxcalプログラムによる推定範囲(2σ))を求めた結果,EV2はAD1520-AD1920,EV3-EV4はAD130-AD1440,EV5は140BC-AD130に形成されたものと推定された.本調査地のイベント層準を仙台平野における津波堆積物調査の結果と比較すると,EV2は1454年享徳地震あるいは1611年慶長地震,EV3-EV4は869年貞観地震,EV5はそれ以前の津波堆積物とそれぞれ対比される可能性がある.
謝辞:本研究を遂行する上で用いた放射性炭素年代測定の原理やその前処理過程について,東京大学総合研究博物館放射性炭素年代測定室の米田穣先生,大森研究員,尾嵜研究員およびその他研究員の方々に多大なご協力とご支援をいただきました.ここに深く感謝いたします.