日本地球惑星科学連合2016年大会

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[O-02] 高校生によるポスター発表

2016年5月22日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、久利 美和(東北大学災害科学国際研究所)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構 地球環境変動領域)、成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、山田 耕(早稲田大学政治経済学術院)

13:45 〜 15:15

[O02-P67] 最終氷期の古環境復元

*山田 直人1、*小林 晃啓1 (1.滋賀県立米原高等学校地学部(地質班))

キーワード:最終氷期、姶良Tn火山灰、花粉化石

動機・目的
滋賀県における最終氷期の古環境に関する研究が標高の高いところでは行われていないのを知り、姶良Tn火山灰(以後ATとする)を指標に最終氷期の堆積物から花粉化石を取り出し、花粉化石から当時の古環境の復元を試みた。
研究1
目的 様々な標高な火山灰を探し出し、その上下の堆積物を採集すること。年代が判明している調査地点の現在の植生や環境を調べること。
方法 伊吹・霊仙山系の山を中心にボーリング調査や露頭の調査を行う。また、調査地点の現在の植生の観察。
結果 調査は13地点、計24回行った。また、いずれの山頂付近は樹林が発達せずコケ・シダ類が繁茂していた。
研究2
目的 野外調査で採集した火山灰がATであるかを同定する。
方法 採集した火山灰を篩や超音波洗浄機を用いて洗浄し検鏡する。その後、琵琶湖博物館地学研究室の協力の下屈折率を測定する。
結果 すでにATと分かっている綿向山と藤川の他に、新たに6地点、計8地点がATと分かった。
研究3
目的 年代が判明した地層の堆積物から花粉化石を取り出し、同定し、当時の環境を調べること。
方法 試料をアセトリシス法で処理し花粉化石を取り出し、同定しスケッチをとる。なお、同定は複数の目で行う。
結果 8地点の試料を処理したところ、吉槻と御池岳元池で多くの花粉化石が検出できた。
研究4
目的 花粉化石と現生の花粉を比較する。
方法 わが校の周辺を中心に様々な地点で現生の植物を採集し、花粉のプレパラートを作成し観察する。
結果 合計で66種の花粉を観察できた。また、花粉化石の同定のときに花粉かどうかの見分けがつけやすくなった。
考察
御池岳元池の泥炭層中からマツやツガが見られたことは季節を問わず山麓から、胞子の化石が多かったことから現在と同じようにコケ・シダ類の群生地が形成されていたと推測した。また、針葉樹の花粉化石に交じって落葉広葉樹の花粉化石が見られるのは、夏の季節風によって比較的温暖な太平洋側斜面および低地から飛来してきたものと考えた。
吉槻の泥炭層中から寒冷地を示すモミ・トウヒ・ツガの針葉樹が多く見られたことは、針葉樹を優占種とする樹林が分布していたと考えられる。また、山門湿原では針広混交林帯であったことが報告されている。これらのことから標高280mの吉槻と標高320mの山門湿原の間が針葉樹林と針広混交林の漸移帯に相当し、その境界は標高約300m付近であると推測した。
結論
伊吹・霊仙山系における最終氷期の針葉樹林帯の下限は、標高約300m付近であることがわかった。北緯36度付近における現在の針葉樹林帯の下限は1500mと生物図表に書かれていることから、当時の針葉樹林帯の下限は現在よりも1200m低かったことになる。2500mと書かれている森林限界線も1200m低かったとすると、標高1377mの伊吹山山頂は、その上部にあった可能性がある。
また、地理の教科書にあるケッペンの気候区分より亜寒帯気候つまり針葉樹林帯の形成には、最寒月気温-3度未満とある。今回の調査結果から標高300mを針葉樹林帯の下限とすると彦根付近はそこから200m標高が低いので気温減率を考慮すると1度~2度気温が上がる。よって、当時の彦根付近における最寒月気温は-1度~-2度となる。現在の彦根の最寒月気温が約3度なので、当時の最寒月平均気温は現在よりも4度~5度低かったことが考えられる。