[SSS14-P05] 2016年熊本地震を対象とした地表地震断層近傍における永久変位を含む長周期成分の評価
キーワード:地表地震断層近傍、地震発生層、永久変位、強震動予測
1.はじめに
2016年熊本地震(Mw7.0)では,主として布田川-日奈久断層帯に沿った広い範囲に地表地震断層が出現し,地震動や断層変位による建物の被害が見られた。地表地震断層近傍における長周期成分や永久変位には地震発生層以浅の影響が大きいことが指摘されており,地震発生層以浅を含む震源断層モデルの設定方法に関して研究が進められている(例えば,Irikura and Kurahashi(2017), 川里・他(2017)など)。田中・他(2017)では,2016年熊本地震を対象に,強震動レシピを地震発生層以浅に拡張し,地表地震断層近傍であるKiK-net益城と西原村の観測記録の再現を行っている。ただし,地表地震断層から離れた観測点の再現性は確認できていない。そこで,本稿では,地表地震断層近傍を含む広域の観測点を対象として,強震動レシピを地震発生層以浅に拡張したモデルを用いて,理論的手法により観測記録の長周期成分を再現することを試みる。
2.震源断層モデルの設定
設定した2つの震源断層モデルを図1に示す。いずれのモデルも地震発生層内は強震動レシピに基づき設定した。布田川断層と日奈久断層のアスペリティ位置については,引間(2016)を参考に設定した。地震発生層以浅は田中・他(2017)に基づき,すべり分布は地震発生層内と同じ値を設定し,すべり速度時間関数は規格化Yoffe関数を用いる。ただし,田中・他(2017)における観測記録の再現性を踏まえ,それぞれのモデルで異なる不確かさを考慮している。モデル1では,布田川断層帯の地震発生層以浅のアスペリティを対象に,すべり量,すべり角,及びすべり速度時間関数の不確かさを考慮した。一方,モデル2では,日奈久断層と布田川断層に加え出ノ口断層を考慮した。出ノ口断層の破壊伝播速度は観測記録の再現性を考慮して3.0km/sと設定した。引間(2016)によれば,今回設定した出ノ口断層付近で局所的に3.2km/s程度の破壊伝播速度であった可能性を指摘しており,本研究の設定はこれと調和的である。
3.理論的手法に基づく地震動評価結果
理論的手法(波数積分法)に基づく地震動評価結果と観測記録の比較を図2に示す。いずれのモデルでも,地表地震断層近傍及び地表断層から離れた観測記録の傾向を良く再現できる。ただし,震源断層近傍に位置する西原村の評価において,モデル1は布田川断層の地震発生層以浅からの地震動のみで観測記録を再現するのに対して,モデル2では布田川断層の地震発生層以浅に加えて出ノ口断層の地震発生層内からの地震動の寄与も大きい。また,KMM009やKMM011における後続波形(15秒付近)に関しては,モデル1ではほとんど振幅がないのに対して,モデル2は出ノ口断層の寄与により,観測記録の傾向が定性的には再現できており,2つのモデルの違いがあらわれている。そこで,2つのモデルの妥当性について検討を行った。まず,モデル1で設定した地震発生層以浅における4.1mというすべり量は,活断層調査結果から確認できる水平方向の最大値2.2mよりも有意に大きい。次に,すべり速度時間関数に関して,モデル1で設定したτSの0.7秒は過去の地震を対象にモデル化を行った値よりも明らかに短い。最後に,布田川断層と出ノ口断層に挟まれた領域に着目して,波数積分法により最終的な変位の面的分布と,Himematsu and Furuya(2016)による開口レーダーによる変位分布(UD成分)とを比較すると,モデル2では沈降する観測の傾向が再現できるのに対して,モデル1は隆起する傾向となり観測の傾向が再現できない。
以上の比較からは,出ノ口断層を考慮したモデル2が実際の震源に近いと考えられる。仮に布田川断層のみで西原村のような地表地震断層近傍の観測記録を予測するためには,モデル1のように地震発生層以浅に大きな不確かさを考慮する必要がある。したがって,地表地震断層近傍における地震動評価においては巨視的断層面の設定が非常に重要と考えられる。
謝 辞
本研究は文部科学省科研費(JP16K06586)の助成を受けています。東京電力の引間和人博士には2016年熊本地震の震源インバージョン結果をご提供頂きました。防災科学技術研究所K-NET,KiK-net、気象庁、及び熊本県による波形記録を使用させて頂きました。地図の作成にあたっては,GMTを使用しました。ここに,記してお礼を申し上げます。
2016年熊本地震(Mw7.0)では,主として布田川-日奈久断層帯に沿った広い範囲に地表地震断層が出現し,地震動や断層変位による建物の被害が見られた。地表地震断層近傍における長周期成分や永久変位には地震発生層以浅の影響が大きいことが指摘されており,地震発生層以浅を含む震源断層モデルの設定方法に関して研究が進められている(例えば,Irikura and Kurahashi(2017), 川里・他(2017)など)。田中・他(2017)では,2016年熊本地震を対象に,強震動レシピを地震発生層以浅に拡張し,地表地震断層近傍であるKiK-net益城と西原村の観測記録の再現を行っている。ただし,地表地震断層から離れた観測点の再現性は確認できていない。そこで,本稿では,地表地震断層近傍を含む広域の観測点を対象として,強震動レシピを地震発生層以浅に拡張したモデルを用いて,理論的手法により観測記録の長周期成分を再現することを試みる。
2.震源断層モデルの設定
設定した2つの震源断層モデルを図1に示す。いずれのモデルも地震発生層内は強震動レシピに基づき設定した。布田川断層と日奈久断層のアスペリティ位置については,引間(2016)を参考に設定した。地震発生層以浅は田中・他(2017)に基づき,すべり分布は地震発生層内と同じ値を設定し,すべり速度時間関数は規格化Yoffe関数を用いる。ただし,田中・他(2017)における観測記録の再現性を踏まえ,それぞれのモデルで異なる不確かさを考慮している。モデル1では,布田川断層帯の地震発生層以浅のアスペリティを対象に,すべり量,すべり角,及びすべり速度時間関数の不確かさを考慮した。一方,モデル2では,日奈久断層と布田川断層に加え出ノ口断層を考慮した。出ノ口断層の破壊伝播速度は観測記録の再現性を考慮して3.0km/sと設定した。引間(2016)によれば,今回設定した出ノ口断層付近で局所的に3.2km/s程度の破壊伝播速度であった可能性を指摘しており,本研究の設定はこれと調和的である。
3.理論的手法に基づく地震動評価結果
理論的手法(波数積分法)に基づく地震動評価結果と観測記録の比較を図2に示す。いずれのモデルでも,地表地震断層近傍及び地表断層から離れた観測記録の傾向を良く再現できる。ただし,震源断層近傍に位置する西原村の評価において,モデル1は布田川断層の地震発生層以浅からの地震動のみで観測記録を再現するのに対して,モデル2では布田川断層の地震発生層以浅に加えて出ノ口断層の地震発生層内からの地震動の寄与も大きい。また,KMM009やKMM011における後続波形(15秒付近)に関しては,モデル1ではほとんど振幅がないのに対して,モデル2は出ノ口断層の寄与により,観測記録の傾向が定性的には再現できており,2つのモデルの違いがあらわれている。そこで,2つのモデルの妥当性について検討を行った。まず,モデル1で設定した地震発生層以浅における4.1mというすべり量は,活断層調査結果から確認できる水平方向の最大値2.2mよりも有意に大きい。次に,すべり速度時間関数に関して,モデル1で設定したτSの0.7秒は過去の地震を対象にモデル化を行った値よりも明らかに短い。最後に,布田川断層と出ノ口断層に挟まれた領域に着目して,波数積分法により最終的な変位の面的分布と,Himematsu and Furuya(2016)による開口レーダーによる変位分布(UD成分)とを比較すると,モデル2では沈降する観測の傾向が再現できるのに対して,モデル1は隆起する傾向となり観測の傾向が再現できない。
以上の比較からは,出ノ口断層を考慮したモデル2が実際の震源に近いと考えられる。仮に布田川断層のみで西原村のような地表地震断層近傍の観測記録を予測するためには,モデル1のように地震発生層以浅に大きな不確かさを考慮する必要がある。したがって,地表地震断層近傍における地震動評価においては巨視的断層面の設定が非常に重要と考えられる。
謝 辞
本研究は文部科学省科研費(JP16K06586)の助成を受けています。東京電力の引間和人博士には2016年熊本地震の震源インバージョン結果をご提供頂きました。防災科学技術研究所K-NET,KiK-net、気象庁、及び熊本県による波形記録を使用させて頂きました。地図の作成にあたっては,GMTを使用しました。ここに,記してお礼を申し上げます。