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[MIS19-18] 日本の太平洋側から採取された石筍の安定同位体比と凝集同位体に記録された過去8万年の陸域古気候
キーワード:凝集同位体、石筍古気候学
第四紀後期の陸域古気候復元手法として石筍試料は広く用いられてきた。石筍の酸素同位体比(δ18O)は、量的効果や水蒸気ソースによって変動する降水δ18Oだけではなく気温変化の影響を受けることが指摘されている。気温変化を評価する手法の一つは凝集同位体分析である。凝集同位体とは希少な同位体同士が結合した分子を指し、石筍研究では炭酸カルシウムのリン酸反応で生じる二酸化炭素のうち質量数47の13C18O16Oが測定対象となる。その存在度は理論値よりも実測値が高いことが知られており、この理論値と実測値の差分は熱力学的な安定性に起因しているため、炭酸塩の凝集同位体異常(Δ47)のみで当時の気温を復元できる可能性が示されてきた。本研究では安定同位体分析とΔ47分析を、インド洋や日本海からもたらされる水蒸気の影響が無いとされる日本の太平洋側の石筍に適用した。
試料は三重県大紀町から採取された2本の石筍 (KA01, KA03)である。国立台湾大学で実施した合計32点のウラン–トリウム年代測定の結果は、KA01が約1000年前から14000年前に、KA03が約20000年前から80000年前 (Mori et al., 2018) に成長したことを示している。2本の石筍のδ18O変動は中国南部のHulu洞窟などで得られた石筍記録と類似するが、その変動幅は約半分と小さいことが特徴である。
これらのδ18O変動は、Δ47の測定結果から中国南部の石筍とは違う解釈を必要とする。KA01のトップにおけるΔ47は現在の洞窟内部の気温と整合的であり、Δ47が気温記録であることを裏付ける。KA01全体のΔ47変動はδ18O変動と一致する部分が多く、現在の降水δ18Oを考慮すると、14000年前以降のδ18O変動は降水δ18Oというよりも気温変化に大きく支配されていることが示唆された。一方、KA03のΔ47は寒冷期とされるハインリッヒイベント(HE)に対応する部分で低く、高い温度を復元してしまい、単純に温度記録として解釈できない。HEの炭素同位体比(δ13C)はその前後と比較して0.5–1‰高い値を示しており、母岩に供給される天水が減少し、導管内で脱ガス・沈殿が生じたことを示唆している。これはHEに大きく降水量が低下したことと一致しており、石筍表面が乾燥した結果見かけ上矛盾した値を導いたと考えられる。本研究の結果は石筍古気候復元においてδ18O変動の解釈に、凝集同位体が極めて有用であることを示している。
試料は三重県大紀町から採取された2本の石筍 (KA01, KA03)である。国立台湾大学で実施した合計32点のウラン–トリウム年代測定の結果は、KA01が約1000年前から14000年前に、KA03が約20000年前から80000年前 (Mori et al., 2018) に成長したことを示している。2本の石筍のδ18O変動は中国南部のHulu洞窟などで得られた石筍記録と類似するが、その変動幅は約半分と小さいことが特徴である。
これらのδ18O変動は、Δ47の測定結果から中国南部の石筍とは違う解釈を必要とする。KA01のトップにおけるΔ47は現在の洞窟内部の気温と整合的であり、Δ47が気温記録であることを裏付ける。KA01全体のΔ47変動はδ18O変動と一致する部分が多く、現在の降水δ18Oを考慮すると、14000年前以降のδ18O変動は降水δ18Oというよりも気温変化に大きく支配されていることが示唆された。一方、KA03のΔ47は寒冷期とされるハインリッヒイベント(HE)に対応する部分で低く、高い温度を復元してしまい、単純に温度記録として解釈できない。HEの炭素同位体比(δ13C)はその前後と比較して0.5–1‰高い値を示しており、母岩に供給される天水が減少し、導管内で脱ガス・沈殿が生じたことを示唆している。これはHEに大きく降水量が低下したことと一致しており、石筍表面が乾燥した結果見かけ上矛盾した値を導いたと考えられる。本研究の結果は石筍古気候復元においてδ18O変動の解釈に、凝集同位体が極めて有用であることを示している。