JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC47] 火山・火成活動および長期予測

コンビーナ:及川 輝樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、三浦 大助(大阪府立大学 大学院理学系研究科 物理科学専攻)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

[SVC47-P09] 伊豆諸島御蔵島におけるテフラ層序の再検討

*田野 智大1鈴木 毅彦1,2石村 大輔1,2寺山 怜1渡辺 樹1 (1.首都大学東京大学院都市環境科学研究科、2.首都大学東京火山災害研究センター)

キーワード:御蔵島火山、火山灰層序、神津島天上山テフラ、新島式根島テフラ

伊豆諸島の御蔵島は東京都心の南約200㎞に位置する伊豆・小笠原弧上の火山島であり,杉原・嶋田(1999)によって島内のテフラ層序が報告されている.しかし,島外起源の流紋岩質テフラの対比根拠は火山ガラスの屈折率,当時考えられていたテフラの分布域,古文書記録であり,対比の根拠が十分とは言えない.また,御蔵島火山起源とされるテフラについてもその火口位置や噴火の推移など,未解明な部分が多い.杉内・福岡(2005)や齋藤ほか(2007)が火山ガラスの主成分化学組成から伊豆諸島間に分布する流紋岩質テフラの島間対比を行っており,同様の手法を御蔵島に存在する流紋岩質テフラに対して用いることで,より正確なテフラ層序を明らかにできると考えられる.正確なテフラ層序を明らかにすることは御蔵島の活動史の把握につながり,御蔵島における火山ハザードを考えるうえでも非常に重要である.

そこで本研究では,御蔵島に分布するテフラの対比・同定を再検討し,テフラ層序を明らかにすることを目的とした.これは御蔵島火山の活動史の解明のみならず,伊豆諸島間におけるテフラの確かな分布域と年代軸の提供に繋がると考えられる

 現地では露頭観察のほか,叩き込み式ハンドオーガーを用いた掘削調査を行った.採取したテフラサンプルは火山ガラスの形態観察や屈折率,主成分化学組成の測定を行い,対比・同定を試みた.

その結果,御蔵島島内において上位より新島向山テフラ(Iz-Nm,AD886;町田・新井,2003),神津島天上山テフラ(Iz-Kt,AD838;町田・新井,2003),御蔵島火山の最新噴火によるMk-3テフラ(6.3 ka:産総研,2017),本研究で新たに発見した2枚のテフラ(Mk-2.2,Mk-2.1),鬼界アカホヤテフラ(K-Ah,7.3 ka;町田・新井,2003),新島式根島テフラ(Iz-Sk,約8 ka;小林ほか,2018),御蔵島火山起源の2枚のテフラ(Mk-2およびMk-1;杉原・嶋田,1999)の合計9枚のテフラを発見した.このうち,Iz-Nm,Iz-Skは本研究で新たに御蔵島に分布することが確認されたテフラであり,各テフラの分布の南限について新たな知見を与えるものである.今回対比したこれらのテフラの層位関係と年代は,杉原・嶋田(1999)や関口ほか(2001)の報告したMk-3の年代値,すなわち6.3 kaと整合的である.またMk-2,Mk-1の噴出年代がIz-Sk(約8 ka)よりも古いことも明らかになった.このほか,鈴原湿原のボーリングコアにおいて Mk-3テフラとIz-Nm・Iz-Ktの間の層準より,クリプトテフラとして火山ガラスを発見した.この火山ガラスはその層位や主成分化学組成から,天城山カワゴ平テフラ(KGP)に由来する可能性がある.

一方で,杉原・嶋田(1999)が報告したMk-2とMk-1の間に存在する給源不明の流紋岩質テフラであるMk-Gは本研究で確認することが出来なかった.

島内の露頭調査よりMk-3噴火が火砕サージ,溶岩流出,火山礫の噴出および火山灰の降下といった推移を辿り,最後に降下軽石を噴出させたことを明らかにした.その層相の変化から,Mk-3噴火の最終局面はプリニアン式噴火であり.軽石を噴出して終了したと考えられる.Mk-3テフラは島南東部の溶岩円頂丘群に近づくほど層厚・粒形共に増大することから,杉原・嶋田(1999)の報告通り,島南東部の溶岩円頂丘群付近が給源だと考えられる.一方,Mk-2,Mk-1についてそれぞれ火口位置を求めるには至らなかったが,Mk-2は杉原・嶋田(1999)の報告通り,島南西部に火口を持つ可能性が高いことが明らかになった.

 新たにMk-3テフラとK-Ahの間の層準より発見されたMk-2.1,Mk-2.2の2枚のテフラはいずれも灰色の降下火山灰であり,島外起源(特に御蔵島に最も近い火山である三宅島)・御蔵島火山起源の2つの可能性がある.本研究ではこの2枚のテフラの給源を特定するまでに至らなかったが,仮に御蔵島火山起源と考えると,K-AhからMk-3までのおよそ1,000年間に3回御蔵島火山の活動があったこととなり,御蔵島火山の活動頻度が今まで考えられていたよりも高い可能性を示唆する.



本研究で使用したテフラ試料の一部は,首都大学東京火山災害研究センターが所有しているものを使用して測定を行った.