日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC25] ニューノーマルの雪氷学

2021年6月3日(木) 09:00 〜 10:30 Ch.13 (Zoom会場13)

コンビーナ:永井 裕人(早稲田大学 教育学部)、舘山 一孝(国立大学法人 北見工業大学)、石川 守(北海道大学)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)、座長:舘山 一孝(国立大学法人 北見工業大学)、永井 裕人(早稲田大学 教育学部)

10:00 〜 10:15

[ACC25-05] キルギス共和国,南イニルチェック氷河における湖盆の地形変化

*本間 夏実1、奈良間 千之1、櫻井 尚輝2 (1.新潟大学、2.株式会社朝日航洋)


キーワード:デブリ氷河、氷河上湖、氷河内水路

はじめに
 デブリ氷河(岩屑被覆氷河)とは,氷河のまわりの岩壁から生産された多量の岩屑により,消耗域がデブリに覆われた氷河である.デブリ氷河上には,氷河上湖とよばれる小規模な湖が発達する.氷河上湖は,氷河内に形成される氷河内水路によって連結しており,氷河内水路が閉鎖されると出現・拡大し,水路が開放されると連結された複数の氷河上湖が同時に出水する現象が報告されている(Sakurai et al., 2020).
 近年,アジア山岳地域では複数の氷河上湖からの大規模出水による災害が発生しており,下流域での被害が報告されている.Wang et al.(2013)は,天山山脈やヒマラヤ東部地域では氷河上湖が増加傾向にあり,これらの地域では今後,氷河上湖の大規模出水に伴う災害が増えると指摘している.ハザードレベルを評価するうえで,氷河上湖の出水量の推定は課題の一つである.氷河上湖は,デブリ氷河上の湖盆地形(凹地地形)に形成されるため,出水量を決定づける湖盆地形の理解は重要である(Cook and Quincey,2015).
 そこで本研究では,衛星画像とUAV空撮画像を用いて,湖盆の地形的特徴とその地形変化の解明を試みた.衛星画像解析によって調べた氷河全域の92個の湖盆の地形特徴および,UAV空撮によって調べた湖盆の地形変化から,南イニルチェック氷河における湖盆および氷河上湖の地形変化(形成,拡大,消滅)を考察した.

研究地域
 研究対象地域は,キルギス共和国東部に位置する南イニルチェック氷河である.南イニルチェック氷河は全長約60.5kmのキルギス最長の谷氷河であり,そのうち岩屑域は末端から約22kmを占める.南イニルチェック氷河の氷河上湖は4月から増加しはじめ,5~6月に最大となり,6~7月に減少する(Narama et al., 2017).

研究手法
 本研究では,SPOT-6のDSMおよびオルソモザイク画像(1.5m解像度)とPlanet社提供のオルソモザイク画像(3.0m解像度)を用いて,南イニルチェック氷河全域の氷河上湖の面積,体積,最大深度,湖面の複雑さの指標である真円度を算出した.真円度は式(1)を用いた.真円度とは,円形形体の幾何学的に正しい円からの狂いの大きさをいい,値が1に近づくほど図形は円形を示し,値が大きくなるほど図形は円形とは異なる形状となる.ここで,Aは氷河上湖の面積,Pは周囲長とする.
    Circularity=P²/4πA      (1)
 さらに,2017年,2018年,2019年におこなわれたUAV空撮により得られた三時期のDSMから湖盆および氷河上湖の断面図を作成し,湖盆の詳細な地形変化を調べた.

結果
 算出された氷河上湖の面積と体積の関係から,面積が4000m²以上の氷河上湖では,体積/面積の大きい関係と体積/面積の小さい関係の二つの傾向が確認された.一方,面積が20000m²以上の巨大な氷河上湖は上記のどちらの傾向にも当てはまらなかった.また,面積4000m²以下の氷河上湖では,大きさが小さいため,明瞭な体積/面積の傾向を判読できなかった.さらに,算出された最大深度と真円度の関係から,体積/面積の大きい氷河上湖は湖面の形状が単純で深く,体積/面積の小さい氷河上湖は複雑で浅い形状であることが確認できた.
 以上のことから,南イニルチェック氷河全体の氷河上湖(面積4000m²以上)では,例外(面積20000m²以上)を除き,異なる地形特徴をもつ2タイプの氷河上湖が存在することが明らかになった.