日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC25] ニューノーマルの雪氷学

2021年6月3日(木) 10:45 〜 12:15 Ch.13 (Zoom会場13)

コンビーナ:永井 裕人(早稲田大学 教育学部)、舘山 一孝(国立大学法人 北見工業大学)、石川 守(北海道大学)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)、座長:石川 守(北海道大学)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)

10:45 〜 11:00

[ACC25-07]  中央アジア・天山山脈に位置する氷河起源型岩石氷河の形成環境

*奥山 駿1、奈良間 千之2、山村 祥子3、高玉 秀之4、山之口 勤5 (1.新潟大・院、2.新潟大、3.朝日航洋株式会社、4.株式会社パスコ、5.一般財団法人リモート・センシング技術センター)


キーワード:岩石氷河、山岳永久凍土、氷河、差分干渉SAR、天山山脈

1.はじめに

 岩石氷河は氷と岩屑が入り交じる永久凍土によって構成されており,氷河と同様に内部氷の塑性変形によって流動する周氷河地形である.岩石氷河の形成と発達には永久凍土が発達しうる地温,降水量(気候的制約)と同時に背後の岩壁からの岩屑供給と岩壁基部での岩屑の堆積場の存在(力学的制約)が必要である(Barsch, 1992; Ikeda and Yoshikawa, 2008).岩石氷河は,岩屑と内部氷の供給源の違いから「崖錐起源型」と「氷河起源型」に分類される(松岡, 1998).「崖錐起源型」は背後の岩盤から供給された礫で形成された崖錐に残雪や地下水が永久凍土の供給源となり発達するタイプである.「氷河起源型」は岩石氷河の上流部に氷河が存在し,氷河氷や氷河からの融解水が供給源となり発達するタイプである.「崖錐起源型」の岩石氷河は世界的に数多く見られ研究事例も多いが,「氷河起源型」の岩石氷河は分布地域も限られるため,その形成環境は明らかでない.本研究地域は全岩石氷河のうち,氷河起源型が約6割を占める特異な地域である.またこの地域は多くが岩石氷河を持つ氷河であるが,岩石氷河を持たない氷河も存在する.これらは同じ周辺環境であるにも関わらず,違う形態を示している.そこで本研究では,天山山脈北部地域のキルギス山脈において,衛星画像解析を用いて「氷河起源型」岩石氷河の空間分布を明らかにし,岩石氷河の形成要因について考察した.

2.研究地域

 本研究地域は,キルギス共和国領内の天山山脈の一部を構成するキルギス山脈である.山脈は,東西に長さ300kmほどあり,高度3500~5000mほどの稜線沿いに小規模な山岳氷河が発達する.同山脈では冬季から春季に降水量が多く,夏季の乾燥期には山岳氷河と山岳永久凍土の融氷水が河川水量の大きな割合を占め,下流で暮らす人々の生活用水に利用されている.キルギス山脈の岩石氷河の一つであるアドギネ岩石氷河では年平均地温が-1.6℃,年平均気温が-3.6℃であり,キルギス山脈は永久凍土が存在できる気象環境である.

3.研究手法

 キルギス山脈の岩石氷河の空間分布を調べるため,空中写真,Landsat8,Sentinel-2の可視画像を用いて岩石氷河の地表面の形態的特徴を判読した.次にALOS-2/PALSAR-2を用いた差分干渉SAR(DInSAR)解析から地表面変動を検出し,岩石氷河を抽出した.岩石氷河の岩屑供給域となる岩壁を抽出するため,Coronaの可視画像とGoogle Earth Proの高解像度画像を使用した.岩壁の抽出範囲はNagai et al(2013)を参考にし,氷河上部から岩石氷河末端までとした.

4.岩石氷河の形成環境とは

 氷河起源型岩石氷河が数多く存在するキルギス山脈において,岩石氷河を持たない氷河を確認した.岩石氷河面積と岩壁面積の相関を調べた結果,岩石氷河面積が大きくなると岩壁面積も大きくなる正の相関が見られた.そこで,岩石氷河を持たない氷河の岩壁面積を調べたところ,岩石氷河を持たない氷河でも十分な岩壁面積を持っていた.この結果より,岩壁面積は岩石氷河の発達に関与するが,岩石氷河形成の要因ではないと考えられる.
 次に衛星画像から岩石氷河の形態的特徴を調べた.岩石氷河は氷河末端が不明瞭で,デッドアイスを含むデブリ地形を持つ.デッドアイスを持つには,氷河と岩石氷河の間に地形的ギャップがないことが重要である.そこで近年,氷河が後退した箇所でデッドアイスが形成されているかを確認するため,Corona,Sentinel-2の可視画像とDInSAR解析の結果を比較した.その結果,後退量が小さい氷河ほどデッドアイスを持つ傾向にあった.したがって,岩石氷河の形成には氷河がゆっくりと後退する必要があり,それには氷河の氷温状態や質量収支が関係していると考えられる.また,氷河末端が不明瞭となるためには,岩屑と氷が入り交じる形態となる必要があり,明瞭な末端を持つ氷河は急速に後退するため,デッドアイスを形成することができない.このことから,デッドアイスを作る末端環境には氷河末端に堆積する岩屑量が関係している可能性がある.