日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG39] 北極域の科学

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.08

コンビーナ:中村 哲(北海道大学大学院地球環境科学研究院)、小野 純(海洋研究開発機構)、島田 利元(宇宙航空研究開発機構)、両角 友喜(北海道大学 大学院農学研究院)

17:15 〜 18:30

[ACG39-P13] グリーンランド・カナック氷帽上SIGMA-Bにおける熱収支解析に基づく表面融解メカニズムの考察

*西村 基志1、青木 輝夫1,2、庭野 匡思2、的場 澄人3、山口 悟4、山崎 哲秀5 (1.国立極地研究所、2.気象研究所、3.北海道大学低温科学研究所、4.防災科学技術研究所、5.アバンナット北極プロジェクト)

キーワード:グリーンランド氷床、表面熱収支、雪氷融解

グリーンランド氷床(GrIS)では近年急激な質量損失が確認されている.特に,GrIS本体から分離した氷帽では,GrISよりも顕著な質量損失が確認されている (Noël et al., 2017).グリーンランド北西部のカナック氷帽上に位置するSIGMA-Bサイトにおいて気象観測データに基づく表面熱収支解析は,その実態を把握する上で非常に重要である.そこで本発表ではグリーンランド北西部における気象観測データの解析を行うことで,同地点における夏季の表面熱収支を明らかにし,表面融解の特徴および各熱要素の変動を制御する要因について明らかにする.
グリーンランド氷床の北西部に位置するカナック氷帽上(SIGMA-Bサイト;77° 31’ N, 69° 04’ W, 944 m a.s.l.)に自動気象観測装置を設置し,気象観測を実施している.SIGMA-Bサイトはカナック氷帽の平衡線付近に位置している (Aoki et al., 2014).観測項目は気温,相対湿度,風向,風速,気圧,上向き・下向き短波放射,上向き・下向き長波放射,積雪深である.本研究では2012年8月から2020年8月までの1時間間隔観測データを用い,熱収支解析を行った.また,上空の雲量の指標 (Nε) をConway et al. (2015) の手法を用いて算出した.
熱収支解析によって計算された夏期の積算表面融解量は,2019年 (1250 mm w.e.),2015年 (1179 mm w.e.),2020年 (1032 mm w.e.)の順で大きかった.それぞれの年の7月の融解量はその年の夏期積算融解量に対して52.0% (2019年),76.7% (2015年),69.7% (2020年) であった.2019年においては,他の年に比べて最も8月の融解量が多く,394 mm w.e. (夏期積算融解量に対して31.5%) の表面融解が起こったと算定された.
2015年7月と2020年7月,および,2019年8月は顕著なアルベドの低下が確認された.また,2015年7月と2020年7月の雲量指数 (Nε) は,他の年に比べて有意に低い値を示した.つまり,アルベドの低下によって短波放射吸収量が増加し,雲量が少なかったことよって,表面融解が大量に起こった考察出来る.