日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS18] 黒潮大蛇行

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.03

コンビーナ:美山 透(国立研究開発法人海洋研究開発機構・アプリケーションラボ)、碓氷 典久(気象研究所)、平田 英隆(立正大学)、瀬藤 聡(国立研究開発法人水産研究・教育機構)

17:15 〜 18:30

[AOS18-P02] 黒潮大蛇行と日本南岸の潮汐振幅変化の関係

*嘉村 拓海1、松浦 浩巳1、上原 克人2 (1.九州大学大学院総合理工学府、2.国立大学法人九州大学応用力学研究所)

キーワード:黒潮大蛇行、潮汐、海面変動

これまで黒潮大蛇行と沿岸水位との関係については,水位差を用いた解析が中心で,潮汐との関係性については十分に議論されていない。そこで本研究では,数十年スケールの潮汐変動と黒潮大蛇行との関係を調べる目的で大阪湾,紀伊水道,および紀伊半島南端に位置する検潮所の水位データを対象に調和解析を行った。使用したのは気象庁が提供する大阪,小松島,白浜,串本,浦神の5つの検潮所における毎時の水位記録である。1年ごとに調和解析を行い,M2,S2,K1分潮の振幅の経年変化を調べた。
 図は,各地点におけるM2潮振幅の経年変化を1950年から2019年の期間について示したものである。縦軸の振幅は,検潮所間での比較を容易にするため,代表値(30.0cm, 42.5cm, 47.2cm, 43.4cm, 45.2cm)で規格化してある。灰色の背景は気象庁の定義に基づく大蛇行期を表す。5地点の中でも特異な経年変動パターンを示していたのは串本(図の橙線)で,M2潮振幅が数年から数十年間隔で間欠的に4%近く増加する傾向が見られるとともに,それぞれの潮汐振幅の極大期は2011年を除けば大蛇行期とほぼ対応していた。気象庁の定義に基づく大蛇行期が1年の半分以上を占める年を大蛇行年とすると,串本における1975年以降のM2潮振幅の平均及び標準偏差は大蛇行年には46.4±0.4cmであったのに対して非大蛇行年には45.4±0.4cmであり,大蛇行年には平均して約2%振幅が増加していた。大蛇行期における潮汐振幅の系統的な増加はS2潮でも見られたが,K1潮では見られなかった。以上の結果から,串本の半日周潮の変動と黒潮大蛇行との間には何らかのつながりがあることが示唆される。
 串本以外の4地点の潮汐振幅については,串本ほど明瞭な大蛇行期・非大蛇行期の違いは見られなかった。黒潮流路から離れた大阪で大蛇行が1年以上続いた時期(例えば1975-1979年や1981-1982年)には大蛇行期の半ばから後半にM2潮振幅の極小が見られるなど,大蛇行と遠隔地の潮汐との関連を示唆する変動傾向も一部で観測されたが,今回の予備的な解析からは明確な結論は得られなかった。
 今回の検潮データ解析から,少なくとも串本では潮汐変動と黒潮大蛇行が関係している可能性が高いことが明らかになった。講演時には,黒潮の流軸位置と潮汐振幅との関係性や、黒潮沿岸の他の検潮所での潮汐変化について同様の解析を進めた結果についても触れる予定である。