日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-02] 地球惑星科学のアウトリーチ

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.03

コンビーナ:小森 次郎(帝京平成大学)、長谷川 直子(お茶の水女子大学)、塚田 健(平塚市博物館)、大木 聖子(慶應義塾大学 環境情報学部)

17:15 〜 18:30

[G02-P01] 「天文に、音楽、絵画、観光などの多角的観点を加えたアウトリーチ」

★招待講演

*上之山 幸代1、富田 晃彦1、尾久土 正己1 (1.和歌山大学)

キーワード:天文アウトリーチ、天文観光

国際天文学連合の戦略計画2020-2030に示されているように、天文は「科学と研究」、「技術と能力」に加え、「文化と社会」の領域にも深く関連し、そして大きな影響を与えてきている。ここでは天文を起点に議論をするが、広く地球惑星科学の分野のどの学問を起点に考えても、これと同じ視点を持つことができる。「文化と社会」の領域として、大自然に接しての畏敬の念からくるインスピレーションや持続可能な発展のための共同体づくりの意識向上に注目したい。音楽、絵画、観光は天文と親和性が高く、「文化と社会」領域の上記の力の獲得を目指して、多くのアウトリーチ活動が行われてきた。一方、その力の獲得について吟味する手段や方法については、暗中模索が続いている。

 今回、吟味対象とするアウトリーチは、フィリピン・ネグロス島で行った、日本からの英語留学のための施設Detiでの実践である。現地の人々や文化、価値観との出会いの中で英語を身につけていくことを目的とした滞在型の学校である。日程は、2019年8月5日~8月16日の12日間であった。参加者は、日本からの親子留学中の生徒(大人5名、子ども7名)、フィリピン人英語教師(約20名)、日本人旅行者(数名)、日本人スタッフとその家族(6名)、インターン中の日本の学生・社会人(7名)などであった。

 実践内容は、(1)「星のお話と観望会」をほぼ毎日開催、(2) アルパ(南米生まれのハープ)を演奏しながら「星座とアルパのお話」、ナイトプールで星を見ながらコンサート、自己啓発及びヒーリングミュージック、お盆の音楽儀式など、(3) 心理カウンセリングで生き方を見つめるセッション、(4) Detiの敷地内のチャイルドハウスの壁に壁画制作、(5) 絵本の挿絵をプロジェクターで投影して朗読、また、現地のライア奏者のBGMで反戦の絵本を朗読、というものであった。実践中の参加者の発言、行動を文字で記録し、その記録から、人々が広い視野を持つことや生き方や共同体を思考することにつながるような事例を見つけ出し、その事例が成立した環境の条件を考察した。これが吟味の材料と方法として採ったものである。

 注目する事例として24のエピソードを挙げた。例えば緯度が違うために見える夜空が違うことに気づき、惑星地球を意識したこと、また、一緒に過ごしているお互いの考えや生き方を知ると同時に、一人一人の行動や心の持ち方の変化を語り合うにいたったこと、星空の案内の技能を知り、伝えていきたいと願う大学生が出てきたことなど、である。それぞれ、その事例のタイミング、参加者の行動、講師側からの評価を書き出した。そして、その事例成立に4つの物的環境と3つの人的環境が必要だったとまとめた。4つの物的環境とは、(1) 地域・風土のよさ、(2) 場(建物、教育の規律)のよさ、(3) 時(期間・時期)の適切さ、(4) 簡便かつ高機能の天文解説ツールである。3つの人的環境とは、(1) スタッフ(依頼者、協力者)の理解と向上心、(2) 参加者の意識の高さ、(3) 講師が持つ引き出しの多種多様性である。