日本地球惑星科学連合2021年大会

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[E] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG21] 堆積物重力流:流れの発生・ダイナミクスと堆積物

2021年6月3日(木) 10:45 〜 12:15 Ch.14 (Zoom会場14)

コンビーナ:成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、横川 美和(大阪工業大学情報科学部)、Michael Robert Dorrell(University of Hull)、座長:成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、Robert Michael Dorrell(University of Hull)、横川 美和(大阪工業大学情報科学部)

11:30 〜 11:45

[HCG21-09] 薩摩半島南方における海底地すべりを起因とする堆積構造

*山口 寛登1、佐野 守2、清水 賢2、井和丸 光2、島 伸和1,2、山本 由弦1,2、大塚 宏徳1,2、松野 哲男1,2、巽 好幸1,2 (1.神戸大学、2.海洋底探査センター)

キーワード:海底地すべり、反射法地震探査、Mass Transport Complexes

鹿児島県、薩摩半島南方の浅海域にみられる海底地すべり堆積物に対し反射法地震探査と海底地形調査を実施した。海底地すべり内部・外部の詳細な構造解析を行うことで海底地すべり形成過程の推定を行った。
海底地すべりには海盆斜面や大陸縁で起こるものが多く、詳細な調査の対象となってきた。しかしながらこれらの地すべりは海底谷といった複雑な海底地形や複数回地すべりが発生することによって複雑な構造をとっており、さらに水深が深いこともあり、高解像度な海底地形は得られてこなかった。また、海底地形と地すべりの内部構造や物理的な特徴の相互関係についてもあまり議論がされていない。本研究では水深200-300mと浅海で最高で10mの分解能をもつ非常に良好な海底地形を取得できた。浅部調査に特化した反射法地震探査によって内部構造も垂直方向およそ5-10m、水平方向およそ50mの分解能と良好な断面が得られた。

調査は神戸大学の深江丸で2017年から2019年にかけて行った。海底地形はノイズ除去の後、地形の統計解析を行うために微細地形を強調する処理を行っている。地すべり前の古地形を、海底地すべり領域外から海底地すべり領域内を補間することで復元した。反射法地震探査は6測線について一般的なノイズ除去等を行い、12.5m間隔のCMPで重合した。

地すべりは最大幅およそ8km、長さおよそ26kmで地すべりに伴う圧縮といった影響を受けた領域を合わせた総面積は174km²に達する。東端には「開聞海底崖」として知られている比高が最大140mの滑落崖が形成されている。地形において周囲より高まったブロック状の地形や尾根状の高まりをまとめて「リッジ」と呼び、リッジの規則性や規模によって「リッジが不規則で大きい(>500m)」「リッジが不規則で小さい(≦500m)」「リッジが連続的でトランスバースクラックがある」「リッジが連続的でNNW-SSEの走向」「リッジが連続的でNE-SWの走向」「リッジが連続的でESE-WNWの走向」と6エリアに分類した。また、古地形を復元したことで海底地すべりによる沈降部・隆起部が把握でき、移動土塊の体積と地すべりの移動距離の検討を行った。これらの結果、沈降部では走向がバラバラな不規則なリッジが、隆起部では走向がそろった規則的なリッジが見出され、移動土塊は1.7km³で移動距離は最大で3kmにわたっていたと推定された。
反射法地震探査から得られた反射断面の特徴について、その側方分布は概ね地形的なそれに対応している。リッジが給源付近では内部構造とは無関係に存在し、中央部では浅部の断層と、末端では地すべり全体にわたる断層と対応している。これらの対応付けをより詳細に行い、微細な断面構造の分析を行うことで地すべりの応力構造が地形に対応して変化していることが明らかになった。また海底地すべり領域外では広く成層構造がみられ、地形もほぼ平坦である。地すべり領域中央部から末端部にかけて見られる4つの反射層は領域外にみられる成層堆積物と対比された。この成層堆積物は滑落崖南側および地すべり北側にみられる斜面上にかけても広くみられ、斜面上で下部堆積物にオンラップする形で堆積している。このことからこの成層堆積物が地すべりを起こしたと考えられる。
まとめると、もとは成層して堆積していた堆積物が東側の斜面から崩れ始めた。側方崖からはじめは南西方向へ、次第に西寄りに方向を変えながら進行したと考えられる。これは古海底地形やリッジの走向方向とよく対応している。給源部近くでは堆積物の構造は全く残っておらず、破砕、混合された。給源周辺では地すべりに由来する礫、砂が10m前後堆積しており、高速で激しく破砕・混合されたことが推定される。破砕された物質が海底面ではリッジとして観測されていると考えられる。中央部、沈降部から隆起部へと移り変わる領域では、最上部のやや固い堆積物が透明な反射の浅部にみられるようになり、破砕・混合は続きながらもその程度は落ちている領域だと推定される。末端部にかけては層理がはっきりとし、断層・変形から広く圧縮を受けている。これは給源から流れ込んできた海底地すべりにより古海底堆積物が移動、変形を受けた領域だと考えられる。変形が海底に達し、規則的なリッジが形成されている。海底地すべりは激しい破砕・混合を伴って南西に向かって発生し、堆積物の急速な移動が起こったことで広い範囲の海底堆積物も移動を起こし現在の海底地すべり地形を形成していると明らかになった。