日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG27] 日本の原子力利用と地球科学:3.11から10年

2021年6月5日(土) 15:30 〜 17:00 Ch.17 (Zoom会場17)

コンビーナ:末次 大輔(海洋研究開発機構 海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター)、寿楽 浩太(東京電機大学工学部人間科学系列)、金嶋 聰(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、鷺谷 威(名古屋大学減災連携研究センター)、座長:末次 大輔(海洋研究開発機構 海域地震火山部門 火山・地球内部研究センター)、鷺谷 威(名古屋大学減災連携研究センター)

16:30 〜 16:45

[HCG27-05] 日本における高レベル放射性廃棄物処分場選定について

★招待講演

*千木良 雅弘1 (1.公財 深田地質研究所)

キーワード:高レベル放射性廃棄物、地層処分、サイト選定、地下水シナリオ、火山噴出物、不確実性

講演者は,2018年(平成30年)に,JpGUの本セッションにおいて,「わが国の高レベル放射性廃棄物の地層処分実現にあたって本当に必要な研究は何か?」と題して,処分場選定についての問題点を指摘した.その時に,「断層運動,火山活動,隆起侵食などの地質現象による直接シナリオを避けられたとしても,地下水シナリオに伴う不確実性は大きな問題なので,地下水の通路としての割れ目の少ない処分場母岩を探すこと、そして、割れ目を非破壊で探す技術が適用できる岩盤を選ぶ、あるいは従来探査の難しかった岩盤にも適用できる新しい探査技術を開発することが必要である」と述べた.こうした見解は,2017年7月に公開された「科学的特性マップ」にも反映されるべきであったが,このマップは,直接シナリオに対するものであり,地下水シナリオに正面から向き合っていない.そして,昨年2020年に,北海道の2つの自治体からの申し出に基づき,処分場調査選定の第1段階にあたる文献調査が開始された.これは,私の知る限り上述の地下水シナリオのための地質学的な考慮は全くなされずに始まったことである.私は現地の地質を直接観察していないが,当該地域の地質の文献と,類似地質の私の調査体験から,今後遭遇するであろう地下水シナリオに関する問題点を指摘したい.

 2つの当該地域の5万分の1地質図幅の説明書によれば,両地域ともに,岩盤は中新世の溶岩や水冷破砕岩などの火山性の地質からなり,これらの地層を貫いて貫入岩が分布している.前者は一般的に不均質で場所による変化が大きく,また,間隙が多く,透水性の高い層が存在すると想定される.貫入岩は,得てして冷却割れ目のために高透水となっていることがあるが,その存在はよほど大規模なもの以外,今の技術では存在を検出することは容易ではない.これらの特徴から,当該地域の地下水シナリオの評価は非常に難しいと想定される.

 我が国の方針では、高レベル放射性廃棄物地層処分場の選定は段階を追って進められることになっている。そして,処分場としての適性が明確に欠落していることが明らかになった場合は適地から除外されるが、不明確な場合には次の段階に進んで調査することになっている。地質が複雑で,不均質性の強い地域を対象として調査を進めると,ある段階の調査結果では適性を判断できない,との考えから次の段階に進むことは容易に想定される.しかしながら,前述した地下水シナリオに関する当該地域の問題は,そう簡単に解決できるとは思えない.つまり,どこまで調査しても処分場としての適性が判断できない事態になりかねない,と考えるべきである.とすると,とるべき道はおのずから明らかである.