日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS10] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2021年6月5日(土) 13:45 〜 15:15 Ch.16 (Zoom会場16)

コンビーナ:小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、内田 太郎(筑波大学)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、座長:苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)

14:30 〜 14:45

[HDS10-04] 崩壊斜面源頭部に広がる線状凹地の地下構造の推定

*大澤 光1、土井 一生2、荒井 紀之2、山川 陽祐1、渡壁 卓磨3 (1.筑波大学山岳科学センター、2.京都大学防災研究所、3.森林総合研究所)

キーワード:重力斜面変形、付加体、表面波探査

近年、豪雨に伴う深層崩壊が相次いで発生しており、その被害軽減の点から崩壊の前兆として知られる斜面内の凹地と崩壊の関係性について明らかにすることが求められている。2011年紀伊半島豪雨災害時には、線状凹地や山向き・谷向き小崖が、崩壊した斜面の上部域に特徴的に残っていたことから、崩壊発生機構と密接に関わっている可能性が示唆されている(Chigira et al. 2013; Arai and Chigira 2019)。Yokoyama (2019)によると、このような線状凹地内は水を貯留しやすい地下構造になっており、凹地内の地下水位の上昇が崩壊発生に影響する可能性を指摘している。しかし、実際に凹地内の地下構造を実証的に解明した研究例は極めて少ない(西井・池田、2013)。よって本研究では、深層崩壊の発生機構に大きな影響を及ぼすと考えられる、崩壊地と接する線状凹地内の地下構造を明らかにすることを目的として、線状凹地内外において地質調査および表面波探査をおこなった。
 静岡県北部の勘行峰沿いの小河内川最上流部を研究対象地とした。本対象地は、緑色や赤色、風化した茶色の岩石が目立つ通称“五色ガレ”と呼ばれる崩壊地であり、本対象地を含め周辺には崩壊地源頭域に明瞭な線状凹地が広がる。
 UAVによる空撮写真からオルソ画像を作成した結果、木の葉型の崩壊地の大きさは縦に200 m、横に150 mであった。地質調査の結果、五色ガレおよびその周辺は玄武岩質のハイアロクラスタイトを主とする緑色岩が分布しており、部分的に赤色泥岩が取り込まれていた。崩壊地最上部にはブロック化した緑色岩が存在するものの、中–上部域には破砕されて粘土化した緑色岩や赤色泥岩が見られた。崩壊地を含む小流域の斜面末端には南北走向60°東傾斜の頁岩がトップリングした露頭が観察され、重力性変形の痕跡が窺える。また、五色ガレから150m西の崩壊斜面には20〜30m程度の幅を持った緑色岩の破砕帯を発見した。これは笹山構造線の断層露頭と考えられる。
 凹地を横断する2測線・縦断1測線の表面波探査の結果、S波速度は地表から深さ3 m程度までが160 m/s以下、深さ3-6 m程度で200–300 m/s、深さ7 m程度以深で400 m/sであった。この結果と地質断面を比較したところ、それぞれ、土層、風化岩盤、基岩に対応することが推定された。横断測線において、凹地部と凸部のS波速度が160 m/sとなる深さを比較したところ、凸部が1.6 mに対して凹部は2.8 mであり、凹地内が深くなることが分かった。この傾向は横断方向2測線において同じであった。また、凹地内の縦断測線の結果、S波速度が160 m/s、300 m/sとなる深さはそれぞれ1.4–2.5 m、3.3-6.4 mであり、斜面に対して直交する方向に連続する凹地内においても速度のばらつきがあることがわかった。
謝辞:現地調査にあたり筑波大学井川演習林の遠藤好和氏、上治雄介氏にご協力をいただいた。また、本研究は京都大学防災研究所一般共同研究(課題番号2020G-09)および筑波大学山岳科学センター機能強化促進費の助成を受けた。ここに記し感謝したします。
引用文献:Chigira et al. (2013):Geomorphology, 201(1), 479-493. Arai and Chigira (2019): Engineering Geology, 260(3), 105236, Yokoyama (2019): Geomorphology, 352(1), 106977. 西井and 池田(2013):地学雑誌, 122(4), 755-767.