日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR04] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2021年6月5日(土) 09:00 〜 10:30 Ch.16 (Zoom会場16)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター)、奥村 晃史(広島大学大学院文学研究科)、里口 保文(滋賀県立琵琶湖博物館)、座長:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、中澤 努(産業技術総合研究所地質調査総合センター)

09:15 〜 09:30

[HQR04-02] 東京で発見されたAta-Thテフラとその意義

*遠藤 邦彦1、隅田 まり2、須貝 俊彦4、藤根 久3、鈴木 正章5、植村 杏太6、杉中 佑輔7、野口 真利江3、石綿 しげ子8、近藤 玲介9、竹村 貴人10 (1.日本大学、2.GEOMAR、3.パレオ・ラボ、4.東京大学大学院、5.文京区教育センター、6.日本大学文理学部自然科学研究所、7.計算力学研究センター、8.NPO法人首都圏地盤解析ネットワーク、9.東京大学 大気海洋研究所、10.日本大学文理学部地球科学科)

キーワード:Ata-Thテフラ、赤羽台ボーリングコア、東京の地質層序、武蔵野台地、中部更新統

1.はじめに 
 武蔵野台地の地形・地下地質の再検討のため,ここ数年多くのボーリングデータ・コアを活用してきた.コアからは多くのテフラが検出され,層序判定に寄与している.最近得た赤羽台コア(NU-AKD-1)及び世田谷区桜丘コア(NU-SKG-1)で得た複数のテフラについて,主にAta-Th, TCu-1(Tm-2)等との対比を検討しその意義を述べる.

2.テフラの産状と対比
a) 赤羽台コア(NU-AKD-1)
 武蔵野台地北東部の北区赤羽台でオールコアを掘削した.標高21mの台地面からは,深度24.20~24.35mに細粒火山灰層と軽石層の連続した層が認められた(赤羽台コア24mテフラと呼ぶ).文京区本郷台や北区上中里の土質調査ボーリングにおいても,同様の火山灰と軽石が見いだされ,阿多鳥浜テフラ(Ata-Th)とTCu-1(Tm-2)との対比がすでに検討されている(鈴木ほか,2020).
 赤羽台コア24mテフラは,深度24.35-24.20mの厚さ約15㎝で淡黄白色の極めて目立つ軽石層(軽石の最大粒径は25㎜,平均2-4㎜),及びその直上の深度24.15mでバブルウォール型火山ガラスに富む細粒火山灰層からなる.この連続するテフラの上位の細粒火山灰層を『24.2m火山灰』,下位の軽石層を『24.3m軽石層』と呼ぶ.これらについて,火山ガラスと鉱物の屈折率,さらに主成分化学組成分析(EDS及びEPMA)を行い,世田谷区桜丘コアのテフラ(植村ほか,2020)と本郷と上中里の火山灰・軽石等との比較を試みた.
b) 世田谷区桜丘コア(NU-SKG-1)など
 世田谷区桜丘コアでは東京層(世田谷層)の基底礫層中にレンズ状軽石層が見いだされ,土屋ローム層のTu-1~8に対比された(植村ほか,2020).また,その近傍のGS-SE-1コアでは世田谷層中にTAu-9が認められた(中澤ほか,2019).赤羽台に近い北区中央公園のコア中に認められる顕著な軽石層は,EDS分析によりTCu-1に対比された(納谷ほか,2020).

3.火山ガラスの分析結果
 『24.2m火山灰』中のバブルウォール型火山ガラスの屈折率値は,本郷や上中里で認められたものと一致した.また,『24.2m火山灰』,本郷,上中里のそれぞれ火山ガラスの主成分化学組成は,宮崎県の阿多鳥浜火砕流堆積物の火山ガラスの値とほぼ一致しており,琵琶湖高島沖コアのAta-Th(長橋ほか,2004)ともほぼ一致する.したがって,『24.2m火山灰』は,Ata-Thテフラに対比される可能性が大きい.
 一方で『24.3m軽石層』の軽石型ガラスの屈折率値は,本郷,上中里の軽石層の値とほぼ一致する.また,この軽石の主成分化学組成は,箱根火山早田ローム層~土屋ローム層期の主な軽石層の分析値(植村ほか,2020など)と比較すると,箱根のTCu-1(Tm-2)に対比される可能性が高い.土屋ローム層期の大規模テフラ(Tu-1-8)も組成は類似するが,後者が示すトレンドはTm-2のトレンドとは若干異なる.世田谷層の基底礫層中の軽石は後者のトレンドに乗る.

4.赤羽台24mテフラ認定の意義
 以上のように,赤羽台『24.2m火山灰』はAta-Thテフラに,同『24.3m軽石層』はTCu-1(Tm-2)に対比される可能性が大きい.
 Ata-Thテフラは大磯丘陵ではTm-4に相当し,TCu-1(Tm-2)降下軽石層・火砕流堆積物の2層上位に認められる.したがって,大磯丘陵の東方ではこの両層が,層位的にも極めて接近して産出することとなり,両層がセットで認められれば,その対比はより確かなものとなる.
 Ata-Thテフラの年代は24万年前とされ(町田・新井,2004),MIS7の海進初期に相当する.赤羽台コアでは,従来東京礫層とされた基底礫層の約2m上位にあり,淡水環境の可能性が強い.24mテフラの下位の礫層はMIS8と示唆される.このように赤羽台ではAta-Thテフラの認定により,築地層と東京層の境界に礫層を挟まず侵食面になる場合があることを示す.そのような境界面の認定には,珪藻分析等による環境の不連続(急変)が鍵になる.

引用文献
遠藤・上杉(1972)第四紀研究, 11, 15-28.
町田・新井(2004)火山灰アトラス, 東大出版会.
納谷ほか(2020)地質雑, 126, 575–587.
長橋ほか(2004)第四紀研究, 43, 15-35.
中澤ほか(2019)地質雑, 125, 367-385.
岡(1991)地調月報, 42, 553-653.
鈴木ほか(2020)第四紀学会大会.
植村ほか(2020)日大文理自然研「研究紀要」, 55, 155-164.
上杉(1976)関東の四紀, 3, 28-38.