日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT17] 浅部物理探査が目指す新しい展開

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.08

コンビーナ:尾西 恭亮(国立研究開発法人土木研究所)、青池 邦夫(応用地質株式会社)、横田 俊之(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)、高橋 亨(公益財団法人深田地質研究所)

17:15 〜 18:30

[HTT17-P02] 常時微動測定に基づく江戸時代築造の砂防堰堤の地下構造推定

*向井 厚志1 (1.福山市立大学都市経営学部)

キーワード:常時微動測定、砂防堰堤

広島県福山市には,江戸時代に築造された砂防堰堤「砂留」が数多く残されている。そうした砂防堰堤の中でも大きなものとして,堂々川六番砂留が存在する。この砂留の堆砂面に整備された堂々公園において常時微動測定を実施し,そのH/Vスペクトル比から公園直下の地下構造を推定したところ,軟弱な堆積層が堂々川の川筋に沿って厚く,両側の山の斜面に近づくほど薄くなる傾向がみられた。本研究では,堂々川流域にある他の砂防堰堤においても常時微動測定に基づく地下構造推定を実施し,砂防堰堤築造前の地形の再現を試みた。

広島県において広く分布する花崗岩類は,風化によって土砂状の真砂土に変化する。そのため,表層が崩壊する土砂災害が発生しやすい地域となっている。広島県東部の福山市も,歴史的に甚大な土砂災害を繰り返し経験してきてきた。1673年5月の集中豪雨では,堂々川流域で大規模な土石流が発生し,国分寺や民家・田畑を押し流した。これを受けて福山藩は土砂留普請を進め,同地域に数多くの砂防堰堤が築造されることとなった。そうした砂防堰堤のひとつが,1700年代に築造が始まった堤高8.8mの堂々川六番砂留である。

発表者は,堂々川六番砂留の堂々公園において,2017年以降,常時微動測定を実施してきた。堂々公園は,川筋に沿った方向に長い約70m×250mの広さをもつ。その公園内に約15m間隔で計70か所の測定点を設け,3成分地震計を用いて測定された5分間の常時微動を収録した。その後,常時微動測定値にFFTを当てはめてH/Vスペクトル比を求め,そのピーク位置から卓越振動数を推定した。

堂々公園では,いずれの測定点においても2つの卓越振動数が確認された。ひとつは0.1~1Hzの低振動数側であり,他方は1~10Hzの高振動数側である。これらのうち,後者のH/Vスペクトル比はより大きく,ノイズレベルを上回る明瞭なピークとなっている。この高振動数側の卓越振動数およびH/Vスペクトル比を用いて,水平二層構造を仮定して地下構造推定を行なった。その際,未知数は第1層のP波速度と層厚の2つのみとし,密度やS波速度など,その他のパラメータは定数とした。
地下構造推定の結果,表層である第1層は堂々公園中央を流れる堂々川付近で厚く,川の両岸にある山の斜面に近づくほど浅くなる傾向がみられた。また,堂々川の下流から上流側へ向かうほど,表層の層厚が薄くなる傾向も認められた。このように本研究で得られた堂々公園直下の地下構造は,砂留が構築される以前の谷間地形を反映していると推察できる。これらのことは,地下構造推定に際しては水平二層構造を仮定したものの,水平距離数10mという狭い領域内においても,その直下の複雑な地下構造を推定することが可能であることが示唆される。本研究では,堂々川流域に存在する他の砂防堰堤においても常時微動測定を実施し,砂防堰堤築造前の谷形状を再現し,どのような地形の川筋に砂防堰堤が構築されたのか明らかにする。