日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI33] データ駆動地球惑星科学

2021年6月3日(木) 15:30 〜 17:00 Ch.18 (Zoom会場18)

コンビーナ:桑谷 立(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、長尾 大道(東京大学地震研究所)、上木 賢太(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、伊藤 伸一(東京大学)、座長:桑谷 立(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、上木 賢太(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

16:15 〜 16:30

[MGI33-08] 深層学習を用いた地熱系シミュレーションのパラメータ推定手法の開発:2次元モデルを用いた評価

*嶋 章裕1、石塚 師也1、Elvar Bjarkason2、鈴木 杏奈2、林 為人1 (1.京都大学、2.東北大学)

キーワード:深層学習、ニューラルネットワーク、多次元尺度構成法、熱水系、浸透率、地熱

地熱資源の開発には地下の温度分布を知ることが重要である。しかし数値シミュレーションの既存の逆解析は計算負荷が大きく,また局所解に陥る場合も指摘されており,新規手法の開発が求められている。本研究では将来的にこれらの問題を解決しうる手法として,深層学習を用いた地下の温度分布の推定手法を新規提案し,疑似的な温度検層データを用いて手法の特徴および推定精度の検討を行った。この提案手法は,まずシミュレーションデータのパラメータとなる物性値(浸透率等)とこれらの物性値から計算される坑井位置での温度の関係を学習し,続いて観測された温度検層データからパラメータの推定を行う。また,一般的に深層学習では学習に用いるデータ(訓練データ)の分布範囲が推定したい値を含んでいることが重要とされているが,それを確かめる手法は確立されていない。そのため,本研究では多次元尺度構成法(multidimensional scaling,MDS)を用いることで訓練データの分布の可視化及び選定を行う手法を開発し,深層学習で推定する物性値の誤差を低減できるか検討した。

本研究では,一般的な地熱システムで見られる主な特徴を単純化した6つの地層からなる地下構造を基に,有限差分法に基づく地下流体シミュレータAUTOUGH2を用いて作成された多数のシミュレーションデータを用いた。このシミュレーションデータは2次元空間における物性値および温度の分布を示す。それぞれのシミュレーションデータでは,各地層の浸透率および底部境界条件をパラメータとし,それ以外の物性値(熱伝導率,比熱,空隙率,密度),各地層の厚さや深さは固定した。ここでパラメータとする値の数に応じて複数のシナリオを設定した。またそれぞれのシナリオにおいて,パラメータと温度との非線形性の度合が異なるデータとして,各パラメータの分布範囲が比較的小さいデータと,範囲が比較的大きいデータをそれぞれ500個ずつ作成した。続いて,疑似的な坑井を作成し,各シミュレーションデータにおいて坑井内の温度分布を抽出し,疑似温度検層データおよび訓練データとして用いた。そして,深層学習を適用することで各パラメータと坑井位置での温度の関係を学習し,各パラメータの値の推定を行った。また,MDSを用いて作成した2次元プロットを基にして,疑似温度検層データが訓練データの範囲に含まれるか確認をするとともに,疑似温度データと類似性の高い温度をもつ訓練データのみを学習することでパラメータの推定誤差を減少できるか検討した。

まず全てのシナリオにおいて,パラメータの範囲が小さいデータを訓練データとして用いた場合の方が範囲の大きいデータを用いた場合に比べて誤差が小さいという結果が得られた。これより,推定精度を上げるためには,訓練データのパラメータの変動幅を一定程度小さくすることが有効であると分かった。次に,MDSから得られた2次元プロットを用いて,疑似温度検層データが訓練データの範囲に含まれる場合と含まれない場合を比較した。その結果,含まれる場合の誤差率は1.4%であったのに対し,含まれない場合の誤差率は29.5%であった。よって,推定したいデータは訓練データの範囲に含まれていることが必要であると分かった。最後に,MDSマップを用いて疑似温度検層データに類似した訓練データのみを選別した結果,多くの場合において誤差率の低減が確認された。よって,MDSを用いた訓練データの範囲の選別によって,深層学習の推定精度を向上できる可能性が示された。