日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 水惑星学

2021年6月5日(土) 13:45 〜 15:15 Ch.02 (Zoom会場02)

コンビーナ:関根 康人(東京工業大学地球生命研究所)、渋谷 岳造(海洋研究開発機構)、玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、座長:関根 康人(東京工業大学地球生命研究所)、渋谷 岳造(海洋研究開発機構)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、臼井 寛裕(東京工業大学地球生命研究所)、玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)

14:30 〜 14:45

[MIS14-10] STXMによる惑星表面での粘土鉱物の還元作用による有機物合成過程の解明

*河合 敬宏1、菅 大輝2、武市 泰男3、高橋 嘉夫1,3 (1.東京大学大学院、2.JASRI、3.KEK-PF)

キーワード:有機物、生命の起源、STXM、隕石

【背景】地球外物質中の有機物の進化過程の解明は、生命の材料となる有機物の生成と関連し、多くの研究がなされている。特に天然環境で有機物が無機炭素(CO2)から合成されるプロセスの解明は、始原的な有機物とその進化を考える上で重要である。多くの有機物が、熱的安定性から多環式芳香族炭化水素(PAH)に変化していく進化過程があるが、これでは説明がつかない脂肪族炭素化合物の生成過程については、更なる検討が必要である。一方地球上では、蛇紋岩や鉄サポナイトなどの2価の鉄(Fe)を含む鉱物近傍で水素や脂肪族炭素化合物が生成される可能性が指摘されている(Sfoma et al, 2018)。しかし、これらの研究で鉱物と有機物の相互作用を詳細に調べる上では、局所化学種分析が必要になると考えられるが、その応用はまだ十分ではない。走査型透過X線顕微鏡(STXM)は、30 nmに及ぶ空間分解能で、炭素(C)、窒素(N)やFeの化学種解析が可能な手法であり、これを上記の目的にかなう隕石試料や地球試料に適用することは重要である。そこで我々は、水-鉱物-有機物の相互作用がみられると期待されるAguasZarcas隕石及びTagish Lake隕石中のCやFeの局所化学種をSTXMで解析した。

【実験】KEK-PFのBL-19AのSTXMにより、隕石のFIB薄片試料のCやFeの元素マッピングを行った。実験データはaXis2000(Analysis of X-ray microscopy Images and Spectra)で解析し、各化学元素のX線吸収端近傍構造(XANES)に現れる各化学種の吸収を用いて、化学種マッピングを行った。同様にマグネシウム(Mg)やアルミニウム(Al)のXANESを用いて有機物周辺の鉱物を推定した。

【結果・考察】本研究では、粘土鉱物中のFe(II)がFe(III)に酸化される際に有機物が還元されて脂肪族炭素を生成するという仮説の下、STXM分析においてはFe(II)とFe(III)の区別と、炭素化学種(炭酸や脂肪族炭素、カルボン酸など)の分布について重点的に調べた。AguasZarcas隕石では、Fe(II)付近に炭酸塩と共存した脂肪族炭素の濃集が見られた。Tagish Lake隕石では、Fe(II)分布と炭酸塩中の炭素の分布が一致し、一部シデライトの生成が示唆された。Fe(II)が少ない部位では炭酸塩は少なく、Fe(II)がFe(III)へ酸化される際に炭酸が還元された可能性がある。他にはカルボン酸や炭素鎖由来のピークが見られたが、マッピングに十分なピーク強度は得られなかった。今後より適切な試料の作成とSTXMによる分析、また今回見られた有機物の同位体分析などを進めることで、これらがどのように形成されたのか調べる予定である。関連する物質として、オマーンオフィオライトのボーリングコア試料中のダナイト層中二次鉱物周辺における有機物の探索と炭素や鉄の局所化学種解析も今後行う予定である。