日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS16] 古気候・古海洋変動

2021年6月5日(土) 10:45 〜 12:15 Ch.26 (Zoom会場26)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、長谷川 精(高知大学理工学部)、山崎 敦子(九州大学大学院理学研究院)、山本 彬友(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、座長:長谷川 精(高知大学理工学部)

10:45 〜 11:00

[MIS16-17] 蒸発岩の硫黄同位体比を用いた中新世メッシニアン塩分危機における地中海の硫黄サイクル復元

*古知 武1、黒田 潤一郎1、小川 奈々子2、吉村 寿紘2、宮崎 隆2、Vaglarov Bogdan S.2、大河内 直彦2 (1.東京大学、2.海洋研究開発機構)


キーワード:硫黄同位体、蒸発岩、メッシニアン塩分危機

蒸発岩は海水のような塩を含む水溶液が蒸発することで晶出する鉱物で構成される岩石である。代表的な蒸発鉱物には岩塩(NaCl)や石膏(CaSO4・2H2O)などがある。顕生代には蒸発岩が大量に形成されたイベントがいくつか存在する。直近では後期中新世メッシニアン(7.246–5.333 Ma)に地中海で大規模な蒸発岩形成イベントが発生した。このイベントはメッシニアン塩分危機(Messinian Salinity Crisis : 5.97–5.33 Ma; Hsü et al., 1973; Roveri et al., 2014など)として知られている。この塩分危機は地中海周辺の地殻変動や気候変動により、地中海と大西洋との間で海水交換が弱まり、海水の蒸発量が流入量を上回ったことで発生した。メッシニアン塩分危機は堆積している蒸発岩によって3つのステージに分けられることが知られている。
メッシニアン塩分危機では地中海全域に石膏が堆積し海水から大量の硫酸イオンが除去され、海洋の硫黄同位体比・硫黄循環に大きな影響を与えたと考えられる。実際にメッシニアン塩分危機初期では同時代の外洋の海水よりも地中海の海水から形成された石膏の硫黄同位体比が高くなっていることが確かめられている(Lu and Meyers, 2003)。しかし、メッシニアン塩分危機全体の硫黄同位体比・硫黄循環の変化については検討されていない。また、溶液から石膏が晶出する際には同位体分別が起こり、石膏に34Sが濃縮することが室内実験によって確認されている(Thode and Monster, 1965; Raab and Spiro, 1991)が,先述の先行研究ではこの同位体分別の影響が考慮されていない。
そこで本研究では、石膏晶出時の硫黄同位体比分別を再検討し、その結果とメッシニアン塩分危機で形成された蒸発岩の硫黄同位体比測定からイベント中の地中海の海水の硫黄同位体比の変化を明らかにし、その原因について考察した。石膏晶出時の同位体分別については海水蒸発実験を行い、いくつかの段階で晶出した沈殿物と塩水を同時に採取しそれぞれの硫黄同位体比を測定した。メッシニアン塩分危機における地中海の硫黄同位体比測定には、イタリアとスペインで採取された露頭サンプルと、国際深海掘削計画(Deep Sea Drilling Project : DSDP)第42A次航海(Leg 42A)で掘削されたコアサンプルを用いた。これらの試料についても硫黄同位体比測定を行った。また、形成したステージが判明していないものがあるDSDP Leg 42Aの試料についてはストロンチウム同位体比測定も行い、試料のステージ決定も行った。試料の硫黄同位体比測定およびストロンチウム同位体比測定はそれぞれ海洋研究開発機構横須賀本部のEA-IRMSとTIMSで行った。
海水蒸発実験サンプルの硫黄同位体比測定から石膏沈殿時には約1.4 ‰、岩塩沈殿時にはほぼ0 ‰の同位体分別が確認された。メッシニアン塩分危機蒸発岩の硫黄同位体比測定からメッシニアン塩分危機の各ステージの硫黄同位体比はステージ1では22.37–23.75 ‰、ステージ2 では22.61–23.60 ‰、ステージ3では21.20–22.82 ‰であることがわかった。この測定結果と海水蒸発実験から求めた蒸発岩沈殿時の同位体分別からメッシニアン塩分危機当時の地中海海水の硫黄同位体比を復元すると、ステージ2から3にかけて1~1.5 ‰の硫黄同位体比の低下が認められた。この低下の原因を考察するためボックスモデルによる計算を行った。その結果、硫黄同位体比の低下には大西洋からの海水流入制限による相対的な河川水の流入増加、蒸発岩の形成硫黄同位体比低下の原因であることが示唆された。<gdiv></gdiv>