日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS20] 地球科学としての海洋プラスチック

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.20

コンビーナ:磯辺 篤彦(九州大学応用力学研究所)、川村 喜一郎(山口大学)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、土屋 正史(国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球環境部門)

17:15 〜 18:30

[MIS20-P01] ナイルレッド染色したマイクロプラスチックの自動検出

*土屋 正史1、北橋 倫1、平 陽介2、斎藤 仁志2、小栗 一将1,3、中嶋 亮太1、Lindsay Dhugal4、藤倉 克則1、福島 朋彦1,5 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球環境部門、2.日本電気株式会社、3.南デンマーク大学、4.国立研究開発法人海洋研究開発機構 超先鋭研究開発部門、5.深海資源開発株式会社)

キーワード:マイクロプラスチック、ナイルレッド染色、機械学習、自動判別

海洋マイクロプラスチック(MP)汚染は、沿岸域に留まらず、極域やマリアナ海溝にまで及ぶ広範囲なものであることが明らかになっている。MPは、海洋へ排出されたプラスチックが、波浪や紫外線などの影響により微細化して形成されるが、これらの粒子の主なシンクのひとつが海底堆積物であると考えられる。しかし、MPが陸域や海洋表層から深海へ輸送される過程については、十分な理解が進んでいない。深海堆積物の試料の機会が限られるため、海洋表層に比べ海底におけるMP分布の情報が少ないためである。

海底堆積物における広範囲なMP汚染の実態を広範囲に把握するには、大量の試料を迅速かつ効率的に検出する手法の確立が不可欠であるが、堆積物を構成する鉱物粒子や粘土鉱物・生物遺骸・有機物・炭酸塩などに対しMPは微量であるため、これらを濃縮する作業が必要となる。しかし、実体顕微鏡でのMPの拾い出しは膨大な時間がかかる。また、その小ささゆえFTIR-ATR(フーリエ変換赤外分光法)分析においても取り扱いが難しい場合がある。顕微FTIR(透過・反射モード)は小さなMPの分析も可能であるが、分析可能な粒子の径は数10 µmがまでとなるため、これより小さなMPも含めた総合的なMP分布を把握することは難しい。MPの輸送過程や挙動を理解するためには、このような微細粒子の迅速な分布実態の把握が必要である。

大量の試料を迅速に処理するには、手作業による計数といった手法から、自動的な計数の移行が不可欠である。本研究では、ナイルレッド(NR)で染色したMPを蛍光顕微鏡下で連続的かつ自動的に判別し、これらを計数する手法を検討した。まず、NR染色したMPを連続的に流すフローシステム(フローセル)を作成し、そこを通過した蛍光粒子を、蛍光実体顕微鏡を通して動画撮影する装置を作成した。さらに、得られた動画からMPの形状と数を機械学習により自動判別する画像認識システムを構築した。フローセルは、上下2枚の金属板で構成され、底部には、深さ0.5 mm、幅12 mm、長さ61 mmの舟形の溝を切削し、両端に直径3mmの穴を通じて外部の管と接続した。上部には舟形の窓を開け、76 x 26 mm角のスライドガラスを挟み込み、流体とMPが流れる空間を作った。蛍光実体顕微鏡下で撮影したMPは、画面上の特定の位置に設定した検出枠を通過させ、NR染色したMPの輝度、形状(繊維状・粒子状)、粒径、数量を計測しNEC社製深層学習ソフトウエア「RAPID機械学習」と連携した。本システムを利用した動画の取得と自動判別を行った結果、330 µm以下のMP判別が可能となり、1分間に60個以上の粒子の自動判別を行うことができた。

本研究では試料を堆積物に限定したが、本システムはプランクトンネットの試料なども分析可能である。また、顕微FTIRでも分析が難しい数10 µm以下の粒子についても、顕微鏡の倍率を変えることで識別が可能である。顕微FTIRはピンセットなどで拾い出せないほど小さなMPの分析が可能であるが、高価であるため多様なセクターでの利用や、新興国などへの技術移転を考慮すると導入が困難な場合がある。しかし、NR染色法と組み合わせた本手法は、簡便、低コスト、迅速かつ効率的であるため、グローバルなMP汚染の実態を把握する目的には適している。現状では、この手法はMPの材質の同定はできないが、プラスチックの種類ごとに異なる色で蛍光観察できれば、蛍光顕微鏡からも材質分析を行うことが可能であろう。

謝辞:本研究は、環境省環境研究総合推進費(SII-2-3(2))の助成を受けて実施した。