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[PEM09-P27] LAMPロケット実験搭載多波長オーロラ観測カメラAIC2の開発現状
キーワード:脈動オーロラ、LAMPロケット実験、オーロラ観測多波長カメラ
本講演では、LAMPロケット搭載オーロラ観測用多波長カメラ(AIC2)の開発の現状と、今後の開発予定を報告する。近年のあらせ衛星観測などから、磁気赤道面近傍においてコーラス波が脈動オーロラを引き起こす数keV電子のピッチ角散乱を引き起こすことが明らかになった。コーラス波は、より広いエネルギー帯の電子(数keV-1Mev以上)とピッチ角散乱することが理論的に指摘されている。マイクロバーストはMeV電子の1Hz以上の高速変調である。したがって、数〜10keVの降下電子で発光する脈動オーロラとMeV電子のマイクロバーストは同じ原因であることが期待される。しかし、それらの同時観測をした例は今までにない。LAMPロケットは、粒子・電磁波動とオーロラ光学の同時観測により、脈動オーロラとマイクロバーストの関係を明らかにすることを目的とし、北米アラスカ・ポーカーフラットより2021年の冬に打ち上げられる予定である。プロジェクトPIはNASA/GSFCのS. Jones博士で、日本側からは多波長オーロラカメラ(AIC2)、高エネルギー電子計測器(HEP)、磁場計測器(MIM)からなるPARM2(Pulsating AuRora and Microburst 2)パッケージが提供される。AIC2は2台のCMOS検出器(AIC-S1、AIC-S2)と信号処理エレクトロニクス(AIC-E)から構成される。CMOS検出器には低ノイズ(1.6 e-RMS)かつ広いダイナミックレンジ(16bit A/D)に特徴があるZWO社 ASI-183MM を採用した。AIC-S1はE領域のN2 1PG発光 (中心波長 670 nm, FWHM 20 nm)を視野29 deg x 29 deg(対物レンズSpaceCom JF17095M, f= 17 mm, F/0.95)で撮像する。また、AIC-S2はF領域のOI発光(中心波長846 1 mm, FWHM 4.4 nm)を広角視野106 deg x 106 deg(対物レンズSpacaCom HF3.5M-2, f= 3.5mm, F/1.6)で撮像する。カメラはロケットスピンを打ち消すデスパン部に搭載され視野の制御を行う。具体的には、S1は磁力線フットプリント周辺のN2オーロラ微細構造(Apex高度450kmにおける空間分解能3 km x 3 km)を捉え、粒子との同時観測を行う。また、またS2は磁力線フットプリント(Apex高度450kmにおける直下方向の空間分解能 6 km x 6 km)からリムまでを広くカバーし、脈動オーロラの広域分布に加えて発光高度分布(最大の高度分解能 2 km)を得る。2台のカメラは10 frames/sで同時撮像する。CMOS検出器の元々の画素は3660pix x 3660pixだが、S/N向上とデータ通信レート条件を満たすためにオンボードで1bin=60pix x 60pixビニング処理し、60bin x 60bin空間分解画像(1binあたり16bit深さ)とする。AIC-Eは2台のボードコンピュータNanopi M4V2と2台のFPGA回路、電力供給回路等で構成される。AIC2全体の重量は2.6kg、電力は20Wである。Nanopi M4V2基板上で高温になるCPUの冷却にはヒートパイプを用いる。私たちはこれまでAIC2の主な開発課題として、(1)記録時刻精度、(2)感度較正、(3)デスパン部の回転端子を介したデータ通信、(4)熱真空試験、(5)フォーカス調整、(6)検出器(AIC-S1,S2)と制御エレキ(AIC-E)間の電気インターフェースの評価に取り組んできた。この結果、(1) 時刻精度は0.1msと典型的な脈動オーロラの内部変調(3Hz)観測に十分であること、(2)ダイナミックレンジはAIC-S1で0-480kR、AIC-S2で0-360kRであり、十分な感度分解能があること、(3)連続1時間以上データを取得し、データ抜けやエラーが発生しないこと、 (4)真空中0,10,20 ℃各温度で30分以上AIC2は正常動作し、ヒートパイプも期待通り駆動すること、(5)シムを用いてフォーカス調整が出来ることを実証した。現在(6)について取り組んでいる。具体的には、NanopiM4V2のシステムの初期化とカメラ検知のタイミングが重なる場合にNanopiM4V2とZWOカメラのUSB3.0接続が失敗することがある問題があった。これについてAIC-Eソフトウェアの改修を行った結果、NanopiM4V2のシステム初期化とカメラ検知のタイミングを実測から見積もり、USB3.0の電源の投入をずらす対策を施し、加えてカメラ検知に失敗した場合は再度検知を繰り返すように変更することで解決した。