日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG39] Science of slow earthquakes: Toward unified understandings of whole earthquake process

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.14

コンビーナ:井出 哲(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、廣瀬 仁(神戸大学都市安全研究センター)、氏家 恒太郎(筑波大学生命環境系)、波多野 恭弘(大阪大学理学研究科)

17:15 〜 18:30

[SCG39-P21] 波形情報に基づく微動判定により見えた2006〜2007年の北海道襟裳沖における低周波微動・通常地震活動

*川久保 晋1、東 龍介1、日野 亮太1、高橋 秀暢2,1、太田 和晃2、篠原 雅尚3 (1.東北大学大学院理学研究科、2.国立研究開発法人防災科学技術研究所、3.東京大学地震研究所)


キーワード:微動、北海道襟裳沖、スロー地震

1990年代から地震・地殻変動観測の発展により,断層滑りがゆっくり進行して起こるスロー地震が見つかってきた.その一種である低周波微動は2 – 8 Hzの周波数帯域でエネルギーを持ち,0.01 – 0.1 Hzで卓越する超低周波地震 (Very Low Frequency Earthquake, VLFE) の活動と時空間的に一致することが知られる.スロー地震は主に巨大地震震源域に隣接したプレート境界で発生し,プレート境界の応力状態を反映した活動を示すと考えられているため,重要な研究対象と言える (Obara & Kato, 2016).本研究が対象とする北海道襟裳沖では2003年十勝沖地震後から現在まで,VLFEが数ヶ月から1年の周期で時空間的にまとまって発生していたことが知られている(Asano et al., 2003; Baba et al., 2020).一方,微動はシグナルが小さいため近地での観測が必要なことから,北海道襟裳沖では日本海溝海底地震津波観測網(S-net)の運用が始まった2016年以降に観測され始め,VLFE活動との同期性が確かめられた (Tanaka et al., 2019; Nishikawa et al., 2019).しかし,S-net運用開始以前の微動活動の研究事例はない.そこで,本研究では当領域に2006年から2007年に設置されていた自己浮上式海底地震計の記録を再解析し微動の検出を試みた.この期間には北海道襟裳沖でVLFEの活動が報告されているため,微動も活動していたと考えられる.

 Kawakubo et al. (2020)では,エンベロープ相関法 (e.g. Ide, 2010) を用いて地震イベントの検出と震源決定を行ない,検出されたイベントのうち震央決定精度5 km以内,時間残差3秒以内,振動継続時間20秒以上という条件を満たしたものを微動と判定した.その結果,1172個の微動が検出され,それらの多くはS-netによる観測で検出された微動 (Tanaka et al., 2019; Nishikawa et al., 2019) と同様の震央分布を示した.また,S-netによる結果と活動周期や活動規模に多少な差はあるものの,VLFEの活動 (Asano et al., 2003; Baba et al., 2020) と同期して活発に活動する時期とそうでない時期に分かれるという特徴は共通した.一方で,微動と認定されたイベントの中には、頻度は低いものの長期間にわたって継続して発生するものがあった.しかしながら,これらのイベントは通常地震が微動として誤認識された可能性が考えられた.そこで,微動として検出されたイベントの全てに対して波形情報や周波数解析情報をもとに、それらが通常地震であるかどうかを判別し直した.

 判別においては,(1)エンベロープ波形の上でP,S波に対応する波形の立ち上がりが明瞭,(2)振幅が指数的に減衰,(3)周波数領域では10 Hz以上でもパワーを持つ、という条件を満たしたものを通常地震であると判別した.また,(4) 観測点間の振幅比が大きく変化しないイベントは遠地で発生した通常地震と判別した.さらに,(5)高周波 (8 Hz 以上) のみパワーを持つものや,(6)震央付近の観測点でS/N比が低いものはノイズとみなした.いまのところ,これらの判別は目視で行っているが,効率化・客観化の観点から,今後これらを自動で判別する方法を検討する予定である.
 これまでの判別によって、当初は微動として検出された1172イベントのうち201イベントが通常地震,11イベントがノイズであったことがわかり,微動と確認できたものは960イベントであった.より厳格な基準により判別した結果,微動の分布はS-netの観測にもとづく先行研究によるものとの一致度が向上し,微動と通常地震の発生域が重ならないことがより明瞭になった。再判定された微動のほとんどは、すでに報告した3つの活動時期に集中して発生しており,かつて継続的に検知されたイベントのほとんどが通常地震などの誤判定であった.しかし,3つの活動時期以外の小規模な活動を複数認めることができた。これらの小規模活動域は,3つの活動期の微動が発生した微動の主活動域からみて,プレート境界深部側の縁に分布していた.特に3度の活動期のうち最大規模であった2度目の活動期までの3ヶ月間には約1ヶ月の間隔で小規模な活動が発生しており、活動周期の異なる独立した活動が新たに見つかったと言える。また、微動と通常地震の分類ができたことから、今後は微動と通常地震の関係性についてより詳しく調査したい。