日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG51] 広域観測・微視的実験連携による沈み込み帯地震研究の新展開

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.12

コンビーナ:木下 正高(東京大学地震研究所)

17:15 〜 18:30

[SCG51-P01] 化学反応による流体の湧き出しを考慮したプレート沈み込み帯における間隙水圧分布の定常解のモデル計算に向けて

*金木 俊也1、野田 博之1 (1.京都大学防災研究所)

キーワード:プレート沈み込み帯、脱水反応、スメクタイト、間隙水圧、定常解

プレート沈み込み帯では、沈み込みに伴う堆積物の圧密および脱水反応の進行によって、間隙水圧の値が影響を受ける可能性が指摘されてきた。代表的な反応として、スメクタイト-イライト-白雲母の遷移反応や非晶質シリカ-Opal CT-石英の遷移反応などが挙げられる。これらの反応を考慮した定量的なモデル計算はいくつかの先行研究で実施され、主に定常状態における間隙水圧や透水性の空間分布を報告している。しかしこれらの先行研究では、反応による固相の体積変化を無視しているため、その空間分布を考慮した定常解を求める必要がある。

本研究の最終目標は、物理的に正しいと思われるモデルに基づいて、沈み込みに伴う圧密・脱水反応を考慮した間隙水圧の定常解を求めることである。一般的に断層の透水性は母岩と比べて高いことを考慮し、非常に単純な系として、流体が断層に沿ってのみ流れるモデルを考える。境界条件として、表層および地震発生層の下限での間隙水圧を一定に設定した。具体的な沈み込み帯として、南海トラフ熊野沖に着目し、種々の物性値の初期値は掘削コア試料の値を参照した。試料中の非晶質シリカの量は最大でも約1 wt%と報告されているため、ここではスメクタイトの遷移反応のみに着目する。イライトの白雲母化反応の速度論の報告例を見つけることができなかったため、今回はスメクタイトのイライト化のみに焦点を当てる。

化学反応による流体の湧き出しが間隙水圧に及ぼす定性的な影響は、湧き出し量と新たに形成される空隙体積とのバランスで決定する。先行研究にて報告されているいくつかの反応式に基づくと、イライト化の進行に伴って、間隙水圧に正負双方の効果を及ぼしうることがわかった。しかしスメクタイトとイライトが同じモル数で反応することに着目し、その条件を満たす反応式のみに着目すると、イライト化の進行によって間隙水圧が上昇することがわかった。予察的なモデル計算では、脱水反応による湧き出しによって間隙水圧が最大で 10 MPa 程度上昇する結果が得られた。発表ではこれら予察的な結果に加え、発表までに得られた結果について議論を行いたい。