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[SMP25-P06] 阿武隈帯滝根層群大理岩中のシュードタキライト:肥後変成岩大理岩中のシュードタキライトとの類似性
キーワード:シュードタキライト、大理岩、阿武隈帯、滝根層群、肥後変成岩
われわれはこれまで九州中央部肥後変成岩中の大理岩からシュ-ドタキライトを報告してきた(Nishiyama et al., 2019 and 2020, JpGU Meeting).今回,阿武隈帯の滝根層群中の大理岩から肥後変成岩中のものと類似の特徴を有するシュードタキライトを発見したので,報告する.調査地は福島県田村市の新滝根鉱山(旭鉱末(株))である.以下に詳細な岩石記載を述べ,肥後変成岩中のものとの比較を論ずる.
阿武隈変成帯本体(御斎所・竹貫変成岩)の分布域の北,約20 kmの田村市には,白亜紀花崗岩体中のルーフペンダントとして,大理岩(結晶質石灰岩)の大きな岩体(1×7 km2)が変成堆積岩,変成塩基性岩類,変成カンラン岩類を伴って露出している.この岩体は永廣ほか(1989)により,滝根層群と命名されており,変成岩類について詳細な岩石記載が報告されている.滝根層群は花崗岩による接触変成作用を受けている(永廣ほか,1989)が,接触変成作用以前に阿武隈変成岩を形成した広域変成作用を被ったかどうかは不明である.滝根層群がどの地質体に対比されるかは不明であり,その原岩の時代も不祥である(永廣ほか,1989).
新滝根鉱山では,塊状大理岩中に厚さ2 mに達する変成塩基性岩岩脈が数本発達する.この塩基性岩は風化が著しく,構成鉱物の同定はできない.大理岩は白色塊状であるが,局所的に灰色の縞状構造が数cm間隔で発達する箇所があり,灰色縞状部には石英,透輝石,トレモラ閃石,ドロマイトが産する.石英と方解石は直接接しており,珪灰石の形成は認められない.燐灰石が副成分鉱物として含まれる.この縞状部は,一部で斜交関係が認められ,原岩の堆積構造ではなく,一種の脈(流体の通路)であると考えられる.
シュードタキライトは変成塩基性岩脈と大理岩の境界部に幅1-2 cmの黒色脈として観察される.この境界部に沿って石英脈が発達し,その中に黒色の脈としてシュードタキライトが発達したり,母岩の大理岩中に注入脈として分布していたりする.これらは複数の分岐した脈として観察される.SEM-EDSによる観察の結果,以下の特徴が認められた.
(a)シュードタキライトは,主としてドロマイト,石英,カオリナイト族粘土鉱物(Al-Si粘土鉱物)から構成され,少量の方解石を伴う.石英は他形結晶集合体で,一部で破砕組織を示し,ドロマイトに置換される組織(溶食組織)を示す.またドロマイト中にも極めて不規則な外形の石英が包有される.
(b)ドロマイトは鉄とマグネシウムの含有量の差による組成の不均質を示し,一部には成長累帯構造が発達する.
(c)カオリナイト族粘土鉱物中にはまれにカリ長石が含まれ,この粘土鉱物がカリ長石からの変質鉱物であることを示している.
(d)カオリナイト族粘土鉱物は石英に伴っていることが多く,粘土鉱物中に石英の自形結晶が含まれることがある.
(e)ドロマイト中に黄鉄鉱(FeS2)が含まれることがあり,この黄鉄鉱は複雑な溶食組織を示す
(f)方解石はドロマイト中に不規則な形状で含まれることが多い.
以上の観察事実と産状から,本岩が単純な断層破砕岩でないことは明らかである.原岩は大理岩であるから,多量のドロマイトの形成やカリ長石(カオリナイト族粘土鉱物)と石英の存在は外部からの物質移動(Mg, Fe, Al, K, Siなどの供給)を意味する.また.石英以外の鉱物の破砕組織は認められず,ドロマイトに成長累帯構造が認められること,カオリナイト族粘土鉱物中に石英自形結晶が見られることは,多量の流体またはメルトの存在下での結晶作用が推定される.さらに,黄鉄鉱の溶食組織は,メルトとの反応を示唆する.以上のことから,本岩は断層運動に伴う摩擦融解によって生じたメルトが再結晶した岩石であると考えられ,シュードタキライトの一種であると推定される.
引用文献
永広昌之・蟹沢聰史・竹谷陽二郎(1989)阿武隈山地中央部大滝根山西方に分布する先第三系滝根層群 福島県立博物館紀要 第3号 21-37頁.
阿武隈変成帯本体(御斎所・竹貫変成岩)の分布域の北,約20 kmの田村市には,白亜紀花崗岩体中のルーフペンダントとして,大理岩(結晶質石灰岩)の大きな岩体(1×7 km2)が変成堆積岩,変成塩基性岩類,変成カンラン岩類を伴って露出している.この岩体は永廣ほか(1989)により,滝根層群と命名されており,変成岩類について詳細な岩石記載が報告されている.滝根層群は花崗岩による接触変成作用を受けている(永廣ほか,1989)が,接触変成作用以前に阿武隈変成岩を形成した広域変成作用を被ったかどうかは不明である.滝根層群がどの地質体に対比されるかは不明であり,その原岩の時代も不祥である(永廣ほか,1989).
新滝根鉱山では,塊状大理岩中に厚さ2 mに達する変成塩基性岩岩脈が数本発達する.この塩基性岩は風化が著しく,構成鉱物の同定はできない.大理岩は白色塊状であるが,局所的に灰色の縞状構造が数cm間隔で発達する箇所があり,灰色縞状部には石英,透輝石,トレモラ閃石,ドロマイトが産する.石英と方解石は直接接しており,珪灰石の形成は認められない.燐灰石が副成分鉱物として含まれる.この縞状部は,一部で斜交関係が認められ,原岩の堆積構造ではなく,一種の脈(流体の通路)であると考えられる.
シュードタキライトは変成塩基性岩脈と大理岩の境界部に幅1-2 cmの黒色脈として観察される.この境界部に沿って石英脈が発達し,その中に黒色の脈としてシュードタキライトが発達したり,母岩の大理岩中に注入脈として分布していたりする.これらは複数の分岐した脈として観察される.SEM-EDSによる観察の結果,以下の特徴が認められた.
(a)シュードタキライトは,主としてドロマイト,石英,カオリナイト族粘土鉱物(Al-Si粘土鉱物)から構成され,少量の方解石を伴う.石英は他形結晶集合体で,一部で破砕組織を示し,ドロマイトに置換される組織(溶食組織)を示す.またドロマイト中にも極めて不規則な外形の石英が包有される.
(b)ドロマイトは鉄とマグネシウムの含有量の差による組成の不均質を示し,一部には成長累帯構造が発達する.
(c)カオリナイト族粘土鉱物中にはまれにカリ長石が含まれ,この粘土鉱物がカリ長石からの変質鉱物であることを示している.
(d)カオリナイト族粘土鉱物は石英に伴っていることが多く,粘土鉱物中に石英の自形結晶が含まれることがある.
(e)ドロマイト中に黄鉄鉱(FeS2)が含まれることがあり,この黄鉄鉱は複雑な溶食組織を示す
(f)方解石はドロマイト中に不規則な形状で含まれることが多い.
以上の観察事実と産状から,本岩が単純な断層破砕岩でないことは明らかである.原岩は大理岩であるから,多量のドロマイトの形成やカリ長石(カオリナイト族粘土鉱物)と石英の存在は外部からの物質移動(Mg, Fe, Al, K, Siなどの供給)を意味する.また.石英以外の鉱物の破砕組織は認められず,ドロマイトに成長累帯構造が認められること,カオリナイト族粘土鉱物中に石英自形結晶が見られることは,多量の流体またはメルトの存在下での結晶作用が推定される.さらに,黄鉄鉱の溶食組織は,メルトとの反応を示唆する.以上のことから,本岩は断層運動に伴う摩擦融解によって生じたメルトが再結晶した岩石であると考えられ,シュードタキライトの一種であると推定される.
引用文献
永広昌之・蟹沢聰史・竹谷陽二郎(1989)阿武隈山地中央部大滝根山西方に分布する先第三系滝根層群 福島県立博物館紀要 第3号 21-37頁.