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[SMP25-P15] 大分県国東半島、杵築地域に分布する領家変成岩類のP–T–t経路
キーワード:杵築地域、領家変成帯、変成P-T-t経路、バソゾーン
大分県国東半島、杵築地域には領家変成岩類が分布している(森山ほか,1983;Brown,1998;石塚ほか,2005;磯崎ほか,2010)。杵築地域は中新世以降の火山岩類及び火砕流堆積物に広く覆われており、より下位の白亜紀領家変成岩類の露出は小規模である。石塚ほか(2005)では本地域の領家変成岩類の変成度ついて、山口県柳井地域における珪線石–カリ長石帯に相当するのではないかという指摘をした。本研究では、この地域における領家変成岩類のP–T–t経路について検討した。
杵築地域の領家変成岩類は本地域北西部、太田俣水、波多方、小武に点在している。領家変成岩類は泥質片麻岩及び珪質片麻岩、一部苦鉄質変成岩が分布しており、片理面の走向傾斜は主に東西方向、北傾斜である。深成岩類は牛屋敷周辺に白雲母黒雲母花崗岩、倉成周辺に角閃石黒雲母花崗閃緑岩が分布している。角閃石黒雲母花崗閃緑岩は面構造が発達しており、一部で泥質片麻岩を捕獲している。
杵築地域に分布する泥質片麻岩の主な鉱物組合せは以下のとおりである。
鉱物組合せI: Sil + And +Ms + Grt + Bt + Pl + Qz
鉱物組合せII: Sil + Ms + Kfs + Grt + Bt + Pl + Qz
鉱物組合せIII: Sil + Kfs + Grt + Bt + Pl + Qz
なお、鉱物組合せIは本地域西部に見られる。鉱物組合せIIは本地域内に広く見られ、副成分鉱物として電気石が含まれる。鉱物組合せIIIは東部に見られる傾向がある。黒雲母のチタン含有量は鉱物組合せI→IIIの順に高くなる。また鉱物組合せI中のざくろ石の化学組成は、鉱物組み合わせII、III中のざくろ石に比べてグロシュラー成分に最も乏しいという特徴がある。
鉱物組合せからみて、本研究地域では、次の2つの変成反応が重要であろう。
(1) And = Sil
(2) Ms + Qz = Als + Kfs + H2O
ここで、P–T図上で反応(1)は負の傾斜を、反応(2)は正の傾斜をもち、両者は互いに交差する。したがって2つのバソゾーン(例えばCarmicheal, 1978)を定義することができる。本研究地域では、2つのバソゾーン(以下のAとB)を認識できる。そしてそれらのバソゾーンはさらに、温度条件から3つのP–T領域(以下の1・2・3)に区分できる。
バソゾーン A(低圧条件、P < 約2.2 kbar)
P–T領域 A-1 (より低温条件)、And + Msが共存
P–T領域 A-2 (中間的条件)、And + Kfsが共存
P–T領域 A-3 (より高温条件)、Sil + Kfsが共存
バソゾーン B (高圧条件、P > 約2.2 kbar)
P–T領域B-1 (より低温条件)、And + Msが共存
P–T領域 B-2 (中間的条件)、Sil + Msが共存
P–T領域 B-3 (より高温条件)、Sil + Kfsが共存
鏡下の組織において以下の2つの昇温期の変成反応が、以下の順に起きたことが認識できる。
鉱物組合せIにおいて、
And → Sil
鉱物組合せIIにおいて、
Ms + Qz → Sil + Kfs + H2O
また、後退期においては、変成反応組織として以下の2つが認識できる。
鉱物組合せIにおいて、
Sil → And
鉱物組合せI・IIにおいて、
Sil (and And) + Kfs + H2O → Ms + Qz
後退期では、これらの2つの変成反応はほぼ同時期に起きたことが認識できる。したがって後退期の変成反応はバソゾーンAとBの境界付近で起きたことが考えられる。このときの温度圧力条件は約620℃、2.2kbarである。鉱物組合せIの岩石は、後退期にこの条件を通過したと思われる。
以上のことを踏まえると、昇温期にはより高い圧力条件(P > 2.2 kbar)で温度上昇したが、後退期にはより低い圧力条件(P ≒ 2.2 kbar)で温度低下したといえる。したがって、本研究地域の領家変成岩類は、時計回りの変成P–T–t経路を経験している。
引用文献
Brown, M. (1998) Jour. Metamorph. Geol., 16, 3–22.
Carmichael, D. M. (1978) Amer. Jour. Sci., 278, 769-797
石塚吉浩ほか(2005) 5万分の1地質図幅 「豊後杵築地域」 産総研,11–18.
磯崎行雄ほか(2010) 地学雑誌,199, 999–1053.
森山善蔵ほか(1983) 大分大学教育学部,29–62.
杵築地域の領家変成岩類は本地域北西部、太田俣水、波多方、小武に点在している。領家変成岩類は泥質片麻岩及び珪質片麻岩、一部苦鉄質変成岩が分布しており、片理面の走向傾斜は主に東西方向、北傾斜である。深成岩類は牛屋敷周辺に白雲母黒雲母花崗岩、倉成周辺に角閃石黒雲母花崗閃緑岩が分布している。角閃石黒雲母花崗閃緑岩は面構造が発達しており、一部で泥質片麻岩を捕獲している。
杵築地域に分布する泥質片麻岩の主な鉱物組合せは以下のとおりである。
鉱物組合せI: Sil + And +Ms + Grt + Bt + Pl + Qz
鉱物組合せII: Sil + Ms + Kfs + Grt + Bt + Pl + Qz
鉱物組合せIII: Sil + Kfs + Grt + Bt + Pl + Qz
なお、鉱物組合せIは本地域西部に見られる。鉱物組合せIIは本地域内に広く見られ、副成分鉱物として電気石が含まれる。鉱物組合せIIIは東部に見られる傾向がある。黒雲母のチタン含有量は鉱物組合せI→IIIの順に高くなる。また鉱物組合せI中のざくろ石の化学組成は、鉱物組み合わせII、III中のざくろ石に比べてグロシュラー成分に最も乏しいという特徴がある。
鉱物組合せからみて、本研究地域では、次の2つの変成反応が重要であろう。
(1) And = Sil
(2) Ms + Qz = Als + Kfs + H2O
ここで、P–T図上で反応(1)は負の傾斜を、反応(2)は正の傾斜をもち、両者は互いに交差する。したがって2つのバソゾーン(例えばCarmicheal, 1978)を定義することができる。本研究地域では、2つのバソゾーン(以下のAとB)を認識できる。そしてそれらのバソゾーンはさらに、温度条件から3つのP–T領域(以下の1・2・3)に区分できる。
バソゾーン A(低圧条件、P < 約2.2 kbar)
P–T領域 A-1 (より低温条件)、And + Msが共存
P–T領域 A-2 (中間的条件)、And + Kfsが共存
P–T領域 A-3 (より高温条件)、Sil + Kfsが共存
バソゾーン B (高圧条件、P > 約2.2 kbar)
P–T領域B-1 (より低温条件)、And + Msが共存
P–T領域 B-2 (中間的条件)、Sil + Msが共存
P–T領域 B-3 (より高温条件)、Sil + Kfsが共存
鏡下の組織において以下の2つの昇温期の変成反応が、以下の順に起きたことが認識できる。
鉱物組合せIにおいて、
And → Sil
鉱物組合せIIにおいて、
Ms + Qz → Sil + Kfs + H2O
また、後退期においては、変成反応組織として以下の2つが認識できる。
鉱物組合せIにおいて、
Sil → And
鉱物組合せI・IIにおいて、
Sil (and And) + Kfs + H2O → Ms + Qz
後退期では、これらの2つの変成反応はほぼ同時期に起きたことが認識できる。したがって後退期の変成反応はバソゾーンAとBの境界付近で起きたことが考えられる。このときの温度圧力条件は約620℃、2.2kbarである。鉱物組合せIの岩石は、後退期にこの条件を通過したと思われる。
以上のことを踏まえると、昇温期にはより高い圧力条件(P > 2.2 kbar)で温度上昇したが、後退期にはより低い圧力条件(P ≒ 2.2 kbar)で温度低下したといえる。したがって、本研究地域の領家変成岩類は、時計回りの変成P–T–t経路を経験している。
引用文献
Brown, M. (1998) Jour. Metamorph. Geol., 16, 3–22.
Carmichael, D. M. (1978) Amer. Jour. Sci., 278, 769-797
石塚吉浩ほか(2005) 5万分の1地質図幅 「豊後杵築地域」 産総研,11–18.
磯崎行雄ほか(2010) 地学雑誌,199, 999–1053.
森山善蔵ほか(1983) 大分大学教育学部,29–62.