17:15 〜 18:30
[SMP25-P19] ラマン分光法で探る石英包有物の歪
キーワード:歪、包有鉱物、ラマン分光法、石英、ザクロ石、藍晶石
変成作用時に成長したホスト鉱物とその中に取り込まれた微小な包有鉱物は、地表に露出する際の体積変化の違いによって残留圧力が発生する。近年では、包有鉱物のラマンスペクトルのピークシフトから残留圧力を測定し、取り込まれた変成条件を見積もるラマン地質温度圧力計の開発が進んでいる。しかし、従来のラマン地質温度圧力計は、包有鉱物が静水圧下で周囲から一様に応力を受けていると仮定しているが、実際にはホスト鉱物と包有鉱物の弾性係数の方位異方性により偏差応力を受けている状態で包有されており、軸方向で異なる歪を受けている。Murri et al. (2018)は、歪を受けている結晶のラマンスペクトルのピークシフトをGrüneisenテンソルを用いて求める手法を提案した。本研究では、この原理を応用した歪計算プログラム(stRAinMAN; Angel et al, 2019)を用いて、ザクロ石及び藍晶石中の石英包有物が受けている歪を見積もった。
分析対象として、西南日本三波川帯権現地域で採取された石英エクロジャイトとグアテマラのモタグア断層帯で採取されたローソン石エクロジャイトを用いた。上記の試料に加えて、先行研究において報告されている西アルプスLago di Cignanaユニットのgarnetiteのデータ(van Schrojenstein Lantman et al., 2020)も用いた。すべての試料において、ザクロ石中の石英包有物のラマンスペクトルを取得し、標準試料からのピークシフトを算出して歪を見積もった。ザクロ石中の石英包有物に加えて、三波川帯権現地域の石英エクロジャイト試料では、藍晶石中の石英包有物も解析した。歪の計算には、464 cm-1, 205 cm-1, 128 cm-1の3つのピークシフトの値と、Murri et al. (2018)で報告されている石英のGrüneisenテンソルの値(γ1+ γ2, γ3)を用いて、ε1+ε2及びε3を求めた。
ザクロ石中の石英包有物の歪を計算した結果、三波川帯権現地域の石英エクロジャイトは、ε1+ε2が-12×10-3から-24×10-3、ε3が+1×10-3から-4×10-3の範囲をとるのに対し、モタグア断層帯のローソン石エクロジャイトはε1+ε2が-19×10-3から-26×10-3、ε3が-3×10-3から-8×10-3の範囲を示した。先行研究で報告されているLago di Cignanaユニットのgarnetiteでは、ε1+ε2が-12×10-3から-24×10-3、ε3が+1×10-3から-5×10-3が報告されており、三波川帯権現地域の石英エクロジャイトとほぼ同じ範囲を示す。一方、三波川帯権現地域の石英エクロジャイトにおいて、藍晶石中の石英包有物の歪を計算した結果、ε1+ε2が-5×10-3から-21×10-3、ε3が+4×10-3から-4×10-3の範囲を示した。
ラマンスペクトルから石英包有物の歪を見積もった結果、ピーク変成温度が低いほど静水圧条件に近い歪が保持されている傾向が見られた。逆に言うと、最も高温条件である三波川帯権現地域の石英エクロジャイトは、静水圧条件下よりもc軸方向の歪(ε3)が小さくなっている傾向が認められた。この結果は、ピーク変成温度が高いほど包有物の歪(特にc軸方向)が緩和されやすいことを示している。また、藍晶石がホストの場合は、ザクロ石がホストの場合に比べてε3がより緩和する傾向が見られた。これは、藍晶石は体積弾性率の方位異方性が強いため、石英包有物の結晶方位との関係によっては、歪が解消されやすい組合せが存在する可能性がある。ラマンスペクトルを用いた包有鉱物の歪の解析は、変成岩が経験した変成履歴をより詳細に復元できる新たな手がかりになる事が期待される。
引用文献
Angel, R. J. et. al. (2019). Zeitschrift Für Kristallographie - Crystalline Materials, 234(2), 129–140.
Murri, M., et. al. (2018). American Mineralogist, 103(11), 1869–1872.
van Schrojenstein Lantman, H. W. et. al. (2020). Journal of Metamorphic Geology, 1–18.
分析対象として、西南日本三波川帯権現地域で採取された石英エクロジャイトとグアテマラのモタグア断層帯で採取されたローソン石エクロジャイトを用いた。上記の試料に加えて、先行研究において報告されている西アルプスLago di Cignanaユニットのgarnetiteのデータ(van Schrojenstein Lantman et al., 2020)も用いた。すべての試料において、ザクロ石中の石英包有物のラマンスペクトルを取得し、標準試料からのピークシフトを算出して歪を見積もった。ザクロ石中の石英包有物に加えて、三波川帯権現地域の石英エクロジャイト試料では、藍晶石中の石英包有物も解析した。歪の計算には、464 cm-1, 205 cm-1, 128 cm-1の3つのピークシフトの値と、Murri et al. (2018)で報告されている石英のGrüneisenテンソルの値(γ1+ γ2, γ3)を用いて、ε1+ε2及びε3を求めた。
ザクロ石中の石英包有物の歪を計算した結果、三波川帯権現地域の石英エクロジャイトは、ε1+ε2が-12×10-3から-24×10-3、ε3が+1×10-3から-4×10-3の範囲をとるのに対し、モタグア断層帯のローソン石エクロジャイトはε1+ε2が-19×10-3から-26×10-3、ε3が-3×10-3から-8×10-3の範囲を示した。先行研究で報告されているLago di Cignanaユニットのgarnetiteでは、ε1+ε2が-12×10-3から-24×10-3、ε3が+1×10-3から-5×10-3が報告されており、三波川帯権現地域の石英エクロジャイトとほぼ同じ範囲を示す。一方、三波川帯権現地域の石英エクロジャイトにおいて、藍晶石中の石英包有物の歪を計算した結果、ε1+ε2が-5×10-3から-21×10-3、ε3が+4×10-3から-4×10-3の範囲を示した。
ラマンスペクトルから石英包有物の歪を見積もった結果、ピーク変成温度が低いほど静水圧条件に近い歪が保持されている傾向が見られた。逆に言うと、最も高温条件である三波川帯権現地域の石英エクロジャイトは、静水圧条件下よりもc軸方向の歪(ε3)が小さくなっている傾向が認められた。この結果は、ピーク変成温度が高いほど包有物の歪(特にc軸方向)が緩和されやすいことを示している。また、藍晶石がホストの場合は、ザクロ石がホストの場合に比べてε3がより緩和する傾向が見られた。これは、藍晶石は体積弾性率の方位異方性が強いため、石英包有物の結晶方位との関係によっては、歪が解消されやすい組合せが存在する可能性がある。ラマンスペクトルを用いた包有鉱物の歪の解析は、変成岩が経験した変成履歴をより詳細に復元できる新たな手がかりになる事が期待される。
引用文献
Angel, R. J. et. al. (2019). Zeitschrift Für Kristallographie - Crystalline Materials, 234(2), 129–140.
Murri, M., et. al. (2018). American Mineralogist, 103(11), 1869–1872.
van Schrojenstein Lantman, H. W. et. al. (2020). Journal of Metamorphic Geology, 1–18.