日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS06] 地震活動とその物理

2021年6月3日(木) 09:00 〜 10:30 Ch.20 (Zoom会場20)

コンビーナ:吉田 康宏(気象庁気象研究所)、座長:浅野 陽一(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、行竹 洋平(東京大学地震研究所)

09:30 〜 09:45

[SSS06-03] 2020年4月23日M5.5の地震以降の長野県上高地周辺の群発地震活動

*川辺 孝幸1 (1.元山形大学地域教育文化学部)

キーワード:群発地震活動、飛騨山脈南部、曲隆変形

はじめに
 飛騨山脈南部周辺は,本州の中でも浅発地震が最も多発している地域の一つである.この地域では,過去にもMj5クラスの地震が何度か発生していて,その余震が多発したあと減衰するパターンを繰り返してきた.また,活動は浅所だけでなく数十kmの深さの活動まで含まれていることから,マントル上部からのマグマなどの熱流体の活動との関連性が示唆されている(大見ほか,2003).
 このような1922年以来の活動の中で,2020年4月23日13時44分に長野県松本市上高地周辺においてMj5.5の地震を契機に始まった一連の地震活動は,これまでの地震記録の中で最も規模の大きい活動と言える.
 筆者は,2020年4月23日13時44分のMj5.5の地震に始まる今回の地震活動について,浅層地震と地下数十kmまでで起こる地震との関係を時系列に詳細に検討した結果,地震活動は,単純に深部で起こったマグマ活動が割れ目にそって上昇し,やがて浅層で活発な地震を引き起こすという一般的イメージとは異なり,浅層の地震から始まって,次第に深い場所で起きていることが明らかになった.以下にその実態を述べる.

飛騨山脈南部周辺の地震活動の概要
 飛騨山脈南部では,南の御岳火山周辺の地震活動から連続して,浅発地震が多発している.
 これらの地震分布をみると,南から北にかけてその下限は深さ約20kmから次第に浅くなり,比佐山脈南部ではほぼ地表面近くまで浅くなっている.また,琵琶湖北東岩付近からの東西方向を見ても,西から東にかけて浅くなる.すなわち,浅発地震の基底面は,飛騨山脈南部を中心に南部ないしは西部から浅い.
 西南日本東部における浅発地震の基底面の傾向は,飛騨山脈南部を中心とする傾動地形や,基盤岩類の分布傾向とも調和的である.また,飛騨山脈南部では,第四期花崗岩類が分布しており(原山ほか,2009),実際に高い地熱になっていて,熱的傾向も調和的な傾向を示していると考えらえる.
 このような飛騨山脈南部を中心とする熱的傾向は,少なくとも第四紀には熱的エネルギーの供給によって,花崗岩の上昇を含む地殻上部の上昇が起こり,現在も上昇中であると考えられる.このような状況の中で,上高地周辺の地震が起きていると考えられる.

上高地周辺の地震活動
 上高地周辺の地震活動は,南北25km,東西15kmの範囲に限られた狭い範囲の中で,すくなくとも過去100年の間,深さ約50kmに達する中震度の地震を含む活発な地震活動がおこなわれてきた.その分布域の立体形状は,まさに漏斗型の形状をなしている.
 このような上高地周辺の地震活動は,現在までの約100年間をみると,Mj5~5.5クラスの地震が数年から約10年の周期で活動する周期があり,減水しておこる余震の中にも,1週間程度の周期でMj4前後の活動の周期があり,さらに,半日~1日を周期とする活動の周期が認められる.
 さらに特徴的なのは,深さ数10kmまでの地震の発生が,深さ数kmの浅層で発生するMj5以上の地震の数時間後までに起こる.この間,地震の発生する深さは,次第に深くなっていく.すべての周期で数10kmの深さまでの地震が起こるとは限らないし,浅い地震と深い地震との連続性が明瞭でない場合もある.

上高地周辺における地震活動のメカニズム
 このような,狭い範囲で断続的に浅い地震と深い地震が起きる現象に関して,熱流体の関与を考えることができる(大見,2001;2020,川辺,2017).熱流体が関与しているとすると,最初にまず深い地震が発生し,その後順次浅所へと活動域が移り変わるというパターンが一般的である.しかし,上高地周辺の地震の場合は,これとは逆に,常に浅い地震から深い地震への移り変わりであり,熱流体の直接の関与とは逆である.
 飛騨山脈南部における浅発地震の下底面と第四紀花崗岩体の上昇の実態を考えると,上部マントル由来のマグマによる押し上げにによって地殻の曲隆変形に伴って,まずはより脆性的な上部地殻上部から破壊が起こり,それに伴ってより下方へと破断が進行し,やがて本来の応力場では塑性領域にある下部地殻や上部マントルにまで破断が伝搬するというモデルが考えられる.