日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS09] 地震波伝播:理論と応用

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.13

コンビーナ:澤崎 郁(防災科学技術研究所)、西田 究(東京大学地震研究所)、新部 貴夫(石油資源開発株式会社)、岡本 京祐(産業技術総合研究所)

17:15 〜 18:30

[SSS09-P09] 差分法を用いたスカラー波のweak localizationのシミュレーション (2)

*河原 純1、佐藤 雅将1 (1.茨城大学大学院理工学研究科)

キーワード:weak localization、スカラー波、差分法、離散散乱体

地殻のランダムな短波長不均質構造は地震波を散乱し、コーダ波生成の原因となる。通常、散乱された地震波はインコヒーレントと見なせ、干渉の効果は無視できる。しかし波源と観測点が一致する場合、多重散乱を経て観測点に戻る波に対して、同じ経路を逆向きに伝わる同位相の波が必ず存在するため、建設的干渉が生じる。この結果、震源付近に局在化した波動エネルギーの増幅が生じる。この現象をweak localization (以下、WL) と呼ぶ。Margerin et al. (2001) は、点震源から放射されるスカラー波のWLを理論的に解析し、WLによる波動エネルギーの増幅が震源でちょうど2倍になること、増幅が生じる領域の直径が入力波長程度であること、増幅が始まるまでの時間は散乱の平均自由時間で規定されることなどを示した。

前回(2019年度日本地震学会秋季大会)、差分法を用いてフォンカルマン型ランダム媒質中の2次元スカラー波のWLのシミュレーションをおこない、時間の経過とともに震源付近で2倍近いエネルギーの増幅が起きることを確認した。観測された増幅のピーク幅は入力波の卓越波長の半分程度であり、Margerinらの理論と大きく矛盾しなかった。一方、観測されたピーク出現時間は、モデルパラメータから予測される散乱の平均自由時間と一致せず、両者の間に特段の関係性も認められなかった。この不一致の一因として、ランダム媒質の平均自由時間の推定に用いたボルン近似(Sato et al., 2012)が破綻している可能性が考えられる。

そこで本研究では、離散散乱体のランダム分布について2次元スカラー波のWLのシミュレーションを行い、前回と同様な検討を行った。離散散乱体とは亀裂や介在物のような、背景媒質との間に明確な境界を持ち、数えられる散乱体を指す。ランダム媒質と異なり、離散散乱体の全散乱断面積は近似によらず定義可能である。全散乱断面積 σ0 の離散散乱体が速度 V0 の背景媒質中に数密度 n で分布するとき、散乱の平均自由時間は (nσ0V0)-1 で与えられる。

計算には前回と同様、速度-応力スキームの差分法(Virieux, 1984)を採用した。一辺が数格子間隔の微小な正方形の低速度介在物を、差分格子上のある範囲内にランダムに(ただし重ならないように)分布させた。同じ数密度の分布を多数用意してシミュレーションをくり返し、得られた波動場からエネルギー分布のアンサンブル平均を求めた。散乱体の全散乱断面積は、Suzuki et al. (2006) の方法を用いて数値的に推定した。具体的には、散乱体分布領域を通る平面波のシミュレーションをくり返して得られる平均波形から、散乱減衰 Q-1 を波数 k の関数として推定した後、Q-1=nσ0/k の関係から σ0(k) を求めた。この方法は、分布密度が低いことと、波長が散乱体サイズより十分に大きく散乱が等方的であることを前提としている。

シミュレーションの結果、時間の経過とともに震源付近で2倍近いエネルギーの増幅が起きることを再確認した。観測された増幅のピーク幅は入力波の卓越波長と同程度となった。ピーク出現時間は散乱の平均自由時間よりかなり短く見積もられたものの、両者には正の相関が見られ、散乱体の分布密度が大きい(散乱が強い)ほど、ピークの出現が早まる傾向が見られた。