日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS11] 強震動・地震災害

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.10

コンビーナ:染井 一寛(一般財団法人地域地盤環境研究所)、松元 康広(株式会社構造計画研究所)

17:15 〜 18:30

[SSS11-P20] 確率すべり分布および3次元速度構造モデルを用いた2008年岩手・宮城内陸地震の震源断層近傍における地震動評価

*中村 武史1、澤田 昌孝1 (1.一般財団法人電力中央研究所)

キーワード:岩手・宮城内陸地震、断層変位、確率すべり分布、相反定理、差分法

大地震時の震源断層近傍における地震動は、断層のすべり分布や破壊伝播様式、地盤構造などに左右され、詳細な予測評価を行うためには、対象とする地震の断層不均質すべりと3次元地下構造を考慮することが望ましい。差分法や有限要素法などの数値計算手法は、これらを計算で取り入れることができ、個別の地点だけでなく地表面や海底などにおける地震動を面的に把握するためにも有用である。しかし、これらの手法では計算領域内で多数のグリッドやメッシュを扱って支配方程式を解くために計算負荷が大きく、実用上は予測評価のために入力で使用できるモデル数が限られる。一方、発電所をはじめとする重要構造物における地震動など、予測評価の対象が限られた地点数である場合、グリーン関数の相反性を利用することで総計算量を減らし、多数の震源モデルに対する地震動評価を効率的に行うことができる(例えば、Eisner and Clayton, 2001)。本研究では、地震時に最大3866 galの上下動加速度および140 cmの静的上下変位を記録した2008年岩手・宮城内陸地震時の観測点KiK-net IWTH25(Aoi, et al., 2008; 青井・森川, 2009)を対象に、先行研究で得られている震源モデルを基準とし、そのモデルから確率論的に派生させた多数のモデルに対する静的変位を含む地震動およびモデル間でのそれらの変動について、相反定理による合成波形を用いて評価を行ったので、その結果について報告する。
 相反定理を適用するために必要となるグリーン関数の計算では、Nakamura et al. (2012)による3次元差分法を用いた。基準とする震源モデルは、2008年岩手・宮城内陸地震の断層不均質すべりを推定したAsano and Iwata (2011)を用いた。基準モデルの不均質すべりを確率密度分布として、Murphy et al. (2016)による手法を用いて100ケースのすべり分布モデルを作成した。ここで、計算で用いるすべり分布モデルについて、多数の小断層上の点震源配置で断層震源を近似表現する場合、その配置間隔が大きいと、計算から得られる変位の空間分布が断層近傍で周期的となり、実際の変位観測と大きく異なる分布を示すことがある。本研究では、断層面上における点震源の間隔を50 mで密に配置し、xyzの3方向でグリッド間隔が異なる差分格子上に隙間なく、合計315,216個の点震源を設定した。各小断層での破壊継続時間は配置間隔に合わせて設定し、すべり角や破壊開始地点、破壊伝播速度はAsano and Iwata (2011)による値と同じ値を用いた。構造モデルについては、J-SHISによる深部地盤構造(Fujiwara et al., 2009)を用いた。注目する観測点IWTH25(地表)において、相反定理の適用による波形と、通常のフォワード計算による波形が一致することを確認した後、相反定理を用いて各すべり分布モデルに対する波形の合成を行った。
 100ケースのすべり分布モデルに対する波形合成の結果、変位波形最大振幅の平均は、断層平行水平成分46±12 cm、直交水平成分32±11 cm、上下動成分88±26 cmとなった。静的変位の平均は、断層平行水平成分32±13 cm、直交水平成分4±10 cm、上下動成分69±20 cmとなった。ここで、静的変位は、変位波形の振幅変動がほぼ一定値に収束した、地震発生40秒後から5秒間の平均変位振幅値としている。基準モデルの震源メカニズムはすべり角108°、傾斜角 51°であり、観測点IWTH25は断層面の直上に位置しているため、5ケースを除く全てのモデルケースにおいて、上下動の変位の最大値や静的変位振幅が水平動より大きい結果となった。全ケース中、上下動最大変位および静的変位の最大値はそれぞれ144 cm、112 cmとなり、ケース間で最大変位の振幅が最大6.4倍、静的変位について最大6.9倍の違いであった。また、上下動の最大変位は、静的変位に対して平均1.3倍の振幅差があることを示した。さらに、すべり位置と変位振幅との関係性について調べたところ、最大すべり位置からの震源距離に応じて振幅が減少していることを確認した。観測点が地表地震断層から水平方向に数 km離れているため、振幅分布に対する影響は、すべり位置の深さよりも観測点位置の断層面上への投影点からの距離の方が強いことを示した。