日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT38] ハイパフォーマンスコンピューティングが拓く固体地球科学の未来

2021年6月5日(土) 09:00 〜 10:30 Ch.21 (Zoom会場21)

コンビーナ:堀 高峰(独立行政法人海洋研究開発機構・地震津波海域観測研究開発センター)、八木 勇治(国立大学法人 筑波大学大学院 生命環境系)、汐見 勝彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、縣 亮一郎(海洋研究開発機構)、座長:堀 高峰(独立行政法人海洋研究開発機構・地震津波海域観測研究開発センター)、縣 亮一郎(海洋研究開発機構)

09:30 〜 09:45

[STT38-03] 三次元不均質地下構造での長周期地震動計算における有限要素法プログラムE-wave FEMと差分法プログラムGMSの比較

*縣 亮一郎1、日吉 善久1、廣部 紗也子1、前田 宜浩2、岩城 麻子2、藤田 航平3,4、藤原 広行2、市村 強3,4,5、堀 高峰1 (1.海洋研究開発機構、2.防災科学技術研究所、3.東京大学地震研究所、4.理化学研究所計算科学研究センター、5.理化学研究所革新知能統合研究センター)

キーワード:高性能計算、地震動計算、有限要素法、有限差分法、長周期地震動

将来の発生が懸念される海溝型巨大地震による長周期地震動・強震動の推定は、都市部の地震被害対策を進めていくうえで重要である。そのために、適切に設定された震源断層モデルに対する複雑な地盤構造における地震波動場を、差分法や有限要素法などの数値計算手法を用いて計算することが必要である。このうち、差分法による地震動計算を採用する利点として、構造格子をベースとした離散化に基づくため、計算モデルの生成や並列計算のための適切な領域分割が比較的容易であること、メモリアクセスの効率が良いため高い計算性能を達成しやすく一般的には計算コストが比較的小さいこと、などがあげられる。不連続格子を用いた三次元差分計算プログラムGMS(Aoi & Fujiwara 1999、青井・藤原 1998、青井ら 2004)がパッケージ化され、地震調査研究推進本部等における全国地震動予測地図の作成などをはじめ広く活用されている。有限要素法は、非構造要素を用いた計算モデルを扱うことができるため、地震動計算において複雑な地形や地震波速度構造、様々な震源断層モデルを柔軟に扱うのに適している。また陰的な時間積分と組み合わせることで、より安定した数値計算と、局所的に小さな要素を使った地下構造の詳細な表現が実現しやすくなる。一方で、非構造要素を扱う場合には計算時のメモリアクセスの効率が悪くなる、陰的時間積分を採用する場合に連立一次方程式の求解を毎時間ステップ行う必要がある、などの理由から、大規模問題を高速に解くことは難しいとされてきた。また非構造要素からなる計算メッシュ生成にかかる計算コストも、しばしば地震波動場計算自体以上にボトルネックとなる場合がある。一方、近年のハイパフォーマンスコンピューティング分野における研究開発により、上記の問題点を克服した陰解法による有限要素計算プログラムE-wave FEM (Ichimura et al. 2014など)が開発されている。非構造メッシュ生成とスーパーコンピュータを用いた地震波動場計算双方を、1010自由度以上といった大規模問題に対しても高速に行うことができる。E-wave FEMの国の被害想定への適用に向けた準備も進められている(縣ら、JpGU-AGU Joint Meeting, 2020)。有限要素法と差分法による地震動計算の比較は盛んにおこなわれている(例えば吉村ら、2011, 2012, 2013)一方、陰解法ベースの有限要素法と差分法による計算を国の被害想定等においてどのように使い分けるべきかという観点から、E-wave FEMがGMSのような広く使われる地震動計算プログラムと同等の十分な基本的機能を有していることを確認した上で、両者の関係を機能、計算精度、計算コストなどについて整理しておくことは重要である。本研究ではその一環として、E-wave FEMとGMSを用いて三次元不均質速度構造における長周期地震動の計算を実施し、その結果や計算コストについて比較・議論する。

E-wave FEMを用いて、2013年4月13日に発生した淡路島付近の地震(Mj 6.3)を模擬した地震動計算を行った。防災科学技術研究所のF-netによるメカニズム解に準じて点震源を配置し、同研究所のJ-SHISデータベースをもとに、震源を含む東西方向180km、南北方向150km、鉛直方向50kmの領域に地震波速度が一様な33の層からなる三次元不均質速度構造を設定した。0.35Hz以下の地震動を対象として、各プログラムにおいて普段使われる離散化条件、すなわちS波速度に対して1波長当たりについては最低5要素を満たすように非構造要素により地震波速度構造を表現した。60秒分の地震動を時間刻み幅0.01秒で6000ステップ計算した。E-wave FEMにより数値解を得るのに必要な資源は、東京大学のOakforest-PACS128計算ノード×約22分であった。発表ではGMSでも同様の計算を行った結果を示し、波形を比較すると同時に、行ったメッシュ・格子サイズ等の設定を変更した計算により数値解を検証した結果を紹介する。また、より大規模な領域を対象とした計算結果についても扱う予定である。