日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT38] ハイパフォーマンスコンピューティングが拓く固体地球科学の未来

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.13

コンビーナ:堀 高峰(独立行政法人海洋研究開発機構・地震津波海域観測研究開発センター)、八木 勇治(国立大学法人 筑波大学大学院 生命環境系)、汐見 勝彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、縣 亮一郎(海洋研究開発機構)

17:15 〜 18:30

[STT38-P01] 長周期地震動シミュレーションのための3次元地震波速度構造モデルを用いた中規模地震のCMTカタログの構築 -関東地方-

*吉本 和生1、南浜 功輔1、武村 俊介2、汐見 勝彦3 (1.横浜市立大学、2.東京大学地震研究所、3.防災科学技術研究所)

キーワード:CMTインバージョン、発震機構解、関東地方、長周期地震動

関東地方では,関東堆積盆地構造の影響により,中規模以上の浅発地震の発生に伴って,やや長周期地震動(以下,単に長周期地震動)が発達しやすいことが知られている.この長周期地震動の発生評価の高度化のためには,地震の発震機構に関する正確な情報が必要であるが,現状では,国内における発震機構カタログの構築には,陸域の構造を模した1次元速度構造モデルを用いたモーメントテンソルインバージョンが使用されている.本研究では,関東地方とその周辺で発生した地震を解析対象として,特に海域で発生した地震の発震機構をより正確に推定するために,3次元速度構造モデルに全国1次地下構造モデル(JIVSM) [Koketsu et al. 2012]を用いてセントロイド・モーメントテンソルインバージョンを実施した.また,同解析で推定された発震機構解をF-netのMT解と比較した.

基本的な手法はTakemura et al. (2021)と同様であるが,2004年1月~2020年6月の期間に,関東地方とその周辺(緯度34°N~38°N,経度138°E~142°E)の深さ40 km以浅で発生したマグニチュード5.5以上の82地震を解析した.観測波形には,F-netで収録された広帯域地震波形を使用し,周期帯25~100秒の変位波形を波形フィッティングの対象とした.3次元速度構造モデルに対する地震動のグリーン関数データベースの構築のため,OpenSWPC [Maeda et al. 2017]により相反定理計算を実施した.仮想震源グリッドを,水平方向に0.1° 間隔,鉛直方向(深さ6 km~60 km)に2 km間隔で設定した.震源時間関数は,継続時間1秒のKüpper波形とした.観測波形の再現性については,variance reductionで評価し,その値が最大となる解(以下,3D CMT解)を探索し,地震のモーメントテンソル,セントロイド位置および発震時刻を推定した.

3D CMT解とF-net MT解を比較したところ,両者は陸域においては高い整合性を示し,比較のための指標値として算出したKagan角は,概ねすべての地震で30°以下になることが確認された.しかしながら,茨城県沖や房総半島沖のプレートの三重会合点付近などの海域で発生した地震では,3D CMT解とF-net MT解の差異が大きくなることが確認された.この結果は,発震機構の推定において,陸域に比べて複雑な構造の海域で発生した地震ついては,適切な地震波速度構造モデルの使用が重要になることを示唆するものである.またその他に,本研究では,地震モーメントの推定値について,Takemura et al. (2021)と同様に,JIVSMを用いて推定された値の方が系統的にやや小さくなることを確認した.解析結果の詳細と3D CMT解によるシミュレーションについては,学会発表の際に紹介する.

謝辞
本研究には,防災科学技術研究所のF-netの地震波形記録およびF-net MTカタログの震源情報を使用しました.地震動シミュレーションには,東京大学地震研究所地震火山情報センターの計算機システム,東京大学情報基盤センターの富士通PRIMERGY CX600M1/CX1640M1 (Oakforest-PACS)を利用しました.