日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC28] 活動的⽕⼭

2021年6月5日(土) 09:00 〜 10:30 Ch.25 (Zoom会場25)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、松島 健(九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)、座長:嶋野 岳人(常葉大学大学院環境防災研究科)、三輪 学央(防災科学技術研究所)

09:30 〜 09:45

[SVC28-21] 鬼界アカホヤ噴火噴出物の陸上及び海底堆積物の対比

*中岡 礼奈1、鈴木 桂子1、清水 賢1、金子 克哉2、島 伸和2、清杉 孝司1、羽生 毅3、巽 好幸1、CK20-S01 Leg2 乗船研究者一同、KS19-17 乗船研究者一同、KR20-11 乗船研究者一同 (1.神戸大学 海洋底探査センター、2.神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻、3.海洋研究開発機構 海域地震火山部門)

鬼界アカホヤ噴火は鬼界カルデラ火山で7300年前に海域で発生した巨大噴火である。鬼界アカホヤ噴火はプリニー式船倉降下軽石噴火に始まり、イントラプリニアンである船倉火砕流が発生した。その後大規模火砕流である幸屋火砕流が発生し、それに伴いアカホヤ火山灰が広域に堆積した。陸上では船倉火砕流はカルデラ壁を有す竹島や薩摩硫黄島にのみ堆積している。大規模火砕流である幸屋火砕流堆積物は竹島や薩摩硫黄島で厚く堆積し、海を隔てて数十キロ離れた九州島、種子島、屋久島、口永良部島にも全厚1m前後で薄く堆積している。この幸屋火砕流は海域にも堆積していることが予想されるが、その流動堆積様式については、堆積物の観察が困難なため、これまで十分な研究がなされてこなかった。鬼界カルデラ周辺で実施した反射法地震探査で、鬼界アカホヤ噴火で噴出したと推定される堆積物(ここではUnitS-1と呼ぶ)が広範囲で厚く堆積している様子が確認できた(Shimizu et al., 2021JpGU)。UnitS-1は分布の特徴や内部構造などから、降下堆積物としてではなく、海底を流れて堆積したと推定される。本研究では陸上と海底の両方に堆積する鬼界アカホヤ噴出物について、それぞれの構成物や堆積構造、火山ガラスの化学組成などを比較することによって、火砕物の流動堆積様式を明らかにすることを目的とする。
 陸上では給源近傍と海を渡った遠方で岩相調査と試料採取を行った。海域の堆積物はCHIKYU SCOREプログラムによって、竹島の北東4.3 kmの地点で深度約100 mの掘削を行った。また、新青丸(KS19-17)とかいれい(KR20-11)の研究航海にてSCOREの掘削地点付近を含む給源近傍で7地点、遠方で14地点、コア長1〜4メートルのピストンコアを実施した。SCOREでは深度10 m から100 m まで断続的に掘削を行った。反射法地震探査で確認されたUnit S-1は、2種類の堆積物 Lower S-1(深度17〜22m)とUpper S-1(深度<17m、ただし10 m以浅は採取できていない)の二つのユニットに区分されることを確認した。Lower S-1は淘汰が悪く、赤褐色の軽石ラピリタフ層でしばしばラミナ構造を伴う。Upper S-1は淘汰が悪いラピリ層で、軽石や石質岩片が含まれ、塊状である。これらの境界は構成物が異なるため明瞭である。また、SCORE掘削地点付近で実施したピストンコアではUpper S-1の最上位に相当する堆積物を2 m採取した。水中の堆積物はラピリサイズの軽石と火山灰、外来岩片、結晶片からなり、堆積構造は塊状であることが多いが、採取地点によっては、軽石の級化構造や粒径や構成物の違いにより生じる弱いラミナ構造が見られる地点もある。
 それぞれの堆積物に含まれる火山灰ガラスの化学組成をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)で測定した。鬼界アカホヤ噴火の噴出物は、初期に発生した船倉火砕流はSiO2濃度が75 wt.%程度の高SiO2ガラスのみが含まる。幸屋火砕流堆積物は下位では船倉火砕流と同様に高SiO2ガラスのみであるが、上位に向かいSiO2濃度が65 wt. %程度の低SiO2ガラスが混入する(藤原・鈴木,2013)。陸上の試料は近傍と遠方の両方で下位は高SiO2ガラスのみを含み、上位に向かい低SiO2ガラスが混入する傾向が見られる。SCORE試料はLower S-1とUpper S-1共に陸上の鬼界アカホヤ噴出物と組成が一致する高SiO2ガラスのみが含まれる。ピストンコア試料についてはSCORE掘削地点周辺を含む近傍と遠方の両方で鬼界アカホヤ噴出物と一致する高SiO2ガラスと低SiO2ガラスの両方が含まれている。
 陸上では、高SiO2マグマからなる船倉火砕流が堆積し、その後、幸屋火砕流は初期に高SiO2マグマのみを噴出し、噴火が継続する中で、低SiO2マグマが混ざり下位から徐々に堆積したと推定される。海底の鬼界アカホヤ噴出物もLower S-1とUpper S-1の下部で高SiO2ガラスのみを含むことから、初期に船倉火砕流堆積物、その後に幸屋火砕流堆積物の初期に相当する噴出物が堆積していることが推定される。またピストンコアで採取した海底面近くのUnitS-1上部については、高SiO2ガラスと低SiO2ガラスの両方が含まれることから鬼界アカホヤ噴火の後半の噴出物が堆積したものと考えられる。一方で海底堆積物は、堆積構造や粒度組成などが陸上と異なり、水中堆積を示唆する堆積構造をしばしば示すことなどから、陸上の大規模火砕流とは異なる流動堆積様式であったことが推定される。