日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC28] 活動的⽕⼭

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.16

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、松島 健(九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)

17:15 〜 18:30

[SVC28-P15] 雲仙普賢岳北東麓で見られる岩屑なだれ堆積物と層序

*長井 大輔1 (1.雲仙岳災害記念館)

キーワード:活火山、岩屑なだれ堆積物、雲仙火山

雲仙火山は溶岩ドームの形成や火砕流の発生、山体崩壊などを繰り返し成長した火山である。雲仙普賢岳の北東山麓には、普賢岳起源の火砕流堆積物の存在が指摘されており(小林・加藤,1985、小林・中田,1991、渡辺・星住,1995)、活火山である雲仙火山が今後どのような活動を行うか、過去の噴出物の層序と共に整理しその特徴を把握しておくことが今後の防災対策にも活かされる事項である。長井(2019)では、普賢岳の北東山麓、約5kmほどの位置にある立野地区で、これまで事例のなかった岩屑なだれ堆積物について報告した。今回は同北東山麓、三会地区井出の川町(普賢岳より約7km地点)で別の岩屑なだれ堆積物が新しく発見されたので、その噴出物の記載と層序関係を報告する。

三会地区井出の川町は島原市にあり、現在“がまだすロード”の拡張工事が実施されており、露頭が断続的に露出している。同地区は渡辺・星住(1995)の火山地質図上では、礫石原火砕流堆積面に相当し、年代は約1.9万年の年代値が報告されている(小林・中田,1991)。これまで農地整備がなされており、噴出物の露出が乏しく、礫石原火砕流堆積物やそれに伴う土石流堆積物などの分布の詳細は報告されていない場所にあたる。

新規雲仙火山の活動では、古いものから野岳、妙見岳、普賢岳、眉山などの形成があり、それぞれの活動時期に対応した火砕流堆積物や岩屑なだれ堆積物などが報告されている。野岳は、約7万年前、妙見岳は約3万年前(Hoshizumi et.al,1999)、普賢岳は約2万年前以降の活動で、普賢岳山頂や眉山の形成が約4千年前(小林・中田,1991、渡辺・星住,1995)である。

三会地区井出の川町の露頭では、地表から耕作土約70cmがあり、その直下に黒色土壌と灰白色の風化火山灰が認められる。その直下は礫交じりの黒色土壌がありその下位にやや黄色みがかった火砕流堆積物が約80cmの厚さで確認できる。火山ガラスの顕微鏡観察では間にある礫交じり黒色土壌よりK-Ah(約7300年前)火山ガラスが確認された。立野地区の露頭との対比から上位の風化火山灰は、眉山形成期の六ツ木火砕流に伴う火山灰で、下位の火砕流堆積物は、礫石原火砕流堆積物と考えられる。またここでは、この火砕流堆積物の直下に時間間隙を示す土壌も挟まず岩屑なだれ堆積物に類似する堆積物が新しく見つかった。同層は厚さ数mで溶岩や火砕流堆積物、土壌層などをブロック状に含み、溶岩の破砕部にはジグソー構造も認められる。同層は層厚の変化が著しく厚いところでは流山のようなピークを持つ場所もある。この露頭の近隣では、地元では大塚山と呼ばれる小高い丘があり、この丘自体が岩屑なだれ堆積物で構成されることから、一定の広がりのある堆積物であると推定される。同層の下位の観察では、時間間隙を示す土壌も挟まず上位と類似した火砕流堆積物が再度見られる。このことから、この岩屑なだれは、礫石原火砕流の一連の噴火の最中で発生したものと考えられる。火砕流堆積物の直下は、1.4mの厚さの礫交じり黒色土壌が認められる。同層の下部は、立野地区の露頭との対比からAT火山灰(約2万9千年前)の相当層にあたる。この土壌層下位は黄褐色のローム層が約40cmの厚さで確認できる。長井(2019)では、立野地区の露頭で同黄褐色ローム層の下位に一本松火砕流や阿蘇4火砕流堆積物(約9万年前)を確認しており、その更に下位に別の岩屑なだれ堆積物を報告している。

今回新しく発見した岩屑なだれ堆積物は、発生の時期はK-Ah(約7300年前)より古く、AT火山灰(約2万9千年前)より新しいことから、長井(2019)で報告したものとは別のより新しい時代の岩屑なだれであることが分かった。この新しい岩屑なだれ堆積物が礫石原火砕流噴出時期と一連の噴火で発生した可能性があるが、その流路と考えられている普賢岳により近い湯江川上流では礫石原火砕流堆積物に挟まる岩屑なだれ堆積物は報告されていないことから、発生源や流路の特定など不明な点があり、今後の研究の課題となった。活火山である雲仙火山の活動史を把握し、今後の防災対策にも活かされる成果としたい。