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[SVC28-P23] 火山浅部短波長不均質性による地震波散乱係数の推定
キーワード:火山浅部構造、地震波散乱、人工地震構造探査
火山は地殻において最も構造不均質性の強い場のひとつであると考えられており,その不均質性を理解することはマグマや熱水の流動や火山体成長などの火山現象を解明するうえで一つの大きな手がかりになると考えられる.強い不均質媒質中においては,地震波は散乱の影響を強く受けることになり,特に火山体浅部のような強い不均質場においては,P・S両モード間の変換散乱と各モードの多重散乱が地震波エネルギー伝播を大きく支配することになる.このようなモード変換・多重散乱による地震波の散乱は,地震波干渉法によるグリーン関数抽出における等分配,特にモード間の等分配に強く関係しており,地震波干渉法の適用性等を検討するためにも変換散乱を含めた散乱の定量化は重要である.Yamamoto and Sato (2010) では,浅間山において実施された人工地震火山体構造探査のデータを用いて,地震波動エネルギーの時空間的様相を明らかにし,変換散乱を含めた全散乱係数の定量化を行った.本研究では,これまで実施された人工地震火山体構造探査のデータを用いて,火山浅部における散乱係数の推定を系統的に行った結果を報告する.
本研究では,阿蘇山・磐梯山・岩手山をはじめとする人工地震火山体構造探査のデータを用いて,エネルギーの時空間分布をもとに全散乱係数の推定を行った.これらの人工地震探査記録の特徴の一つに直達P波に続く強いコーダ波の存在が挙げられるが,稠密観測網によって捉えられたコーダ波エネルギーの時間毎の空間分布は二つの傾きを持つ特長的なパターンを示す.この時空間パターンをモード変換を考慮したP・S波の多重等方散乱(輻射伝達モデル)によってモデル化し,P-P, P-S, S-S, S-Pの全散乱係数をそれぞれ推定した.その結果, 4-8 Hz帯・8-16 Hz帯におけるP-S全散乱係数はいずれの火山においても約1.5 kmと求まった.このP-S全散乱係数は,浅間山における同手法による解析結果や桜島におけるアレイ観測によって得られた値と同等であり,火山浅部の短波長不均質性を特徴付けるパラメータ値であると言える.さらに,これらの無限空間における輻射伝達モデルに基づいた手法の妥当性を検討するために,半無限媒質や地表面をもつ成層構造における地震波散乱を数値的に求め,全散乱係数の推定に及ぼす影響を検討した.その結果,無限媒質を仮定した全散乱係数の推定値は最大40%程度の誤差を持つことが示された.しかしながら,モデルの差異や推定誤差を考慮しても,火山浅部における散乱は,通常の地殻内に比べて1オーダー以上強いこととなる.
これらの結果は,短波長不均質性の強い火山体における地震波動伝播において変換散乱と多重散乱が重要なファクターであり,地震波伝播モデリングや地震波干渉法をはじめとする波動場解析において不可欠な要素であることを示唆する.火山浅部における不均質構造の理解のためには,統計的な不均質構造による散乱に加え,Sato (2019) や 佐藤 (2020, JpGU) で提案されたように,空隙群などによる散乱も含めた評価を今後進めていく必要があると考えられる.
謝辞: 本研究には火山体構造探査計画によるデータを使用させていただきました.関係各位に御礼申し上げます.
本研究では,阿蘇山・磐梯山・岩手山をはじめとする人工地震火山体構造探査のデータを用いて,エネルギーの時空間分布をもとに全散乱係数の推定を行った.これらの人工地震探査記録の特徴の一つに直達P波に続く強いコーダ波の存在が挙げられるが,稠密観測網によって捉えられたコーダ波エネルギーの時間毎の空間分布は二つの傾きを持つ特長的なパターンを示す.この時空間パターンをモード変換を考慮したP・S波の多重等方散乱(輻射伝達モデル)によってモデル化し,P-P, P-S, S-S, S-Pの全散乱係数をそれぞれ推定した.その結果, 4-8 Hz帯・8-16 Hz帯におけるP-S全散乱係数はいずれの火山においても約1.5 kmと求まった.このP-S全散乱係数は,浅間山における同手法による解析結果や桜島におけるアレイ観測によって得られた値と同等であり,火山浅部の短波長不均質性を特徴付けるパラメータ値であると言える.さらに,これらの無限空間における輻射伝達モデルに基づいた手法の妥当性を検討するために,半無限媒質や地表面をもつ成層構造における地震波散乱を数値的に求め,全散乱係数の推定に及ぼす影響を検討した.その結果,無限媒質を仮定した全散乱係数の推定値は最大40%程度の誤差を持つことが示された.しかしながら,モデルの差異や推定誤差を考慮しても,火山浅部における散乱は,通常の地殻内に比べて1オーダー以上強いこととなる.
これらの結果は,短波長不均質性の強い火山体における地震波動伝播において変換散乱と多重散乱が重要なファクターであり,地震波伝播モデリングや地震波干渉法をはじめとする波動場解析において不可欠な要素であることを示唆する.火山浅部における不均質構造の理解のためには,統計的な不均質構造による散乱に加え,Sato (2019) や 佐藤 (2020, JpGU) で提案されたように,空隙群などによる散乱も含めた評価を今後進めていく必要があると考えられる.
謝辞: 本研究には火山体構造探査計画によるデータを使用させていただきました.関係各位に御礼申し上げます.