日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC29] 火山の熱水系

2021年6月6日(日) 13:45 〜 15:15 Ch.25 (Zoom会場25)

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)、大場 武(東海大学理学部化学科)、座長:大場 武(東海大学理学部化学科)、神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)

14:45 〜 15:00

[SVC29-05] 干渉SAR解析結果から推定される箱根火山浅部熱水系の構造について

*道家 涼介1、萬年 一剛1、板寺 一洋1 (1.神奈川県温泉地学研究所)

キーワード:箱根火山、熱水系、水蒸気噴火、干渉SAR、地表面変位

箱根火山における2015年イベントでは,多くの地上の観測点に加え,人工衛星搭載SARの観測により,水蒸気噴火に至る約2ヶ月間のプロセスが詳細に捉えられた。一方、近年,同火山では比抵抗探査などにより地下のイメージングが進んでいる。本発表では,干渉SAR解析によって検出された,箱根火山浅部の熱水活動に起因すると考えられる地表面変位やそれを説明するモデルと,そこから推測される同火山の浅部熱水系の構造について紹介する。

1. 2015年活動時における大涌谷局所の地表面変位
 2015年の活動時には,同年4月初めより基線長の増加が認められていたが、同年5月3日より大涌谷にある深さ413mの蒸気井で噴出する蒸気の量が激増する噴気異常が発生し,その後繰り返し行われたALOS-2/PALSAR-2の観測では,大涌谷の局所(直径約200 m)が隆起していることが観測された(Kobayashi et al., 2018; Doke et al., 2018)。この地表面変位は,標高約900m付近(深さ約100 m)における茂木モデルにて説明される。また,比抵抗構造探査からは,この付近に局所的な高比抵抗帯が検出され、蒸気溜まり(蒸気ポケット)と解釈されている(Mannen et al., 2019)。

2. 2015年水蒸気噴火時の地表面変位と流体クラックの貫入
 2015年6月29日〜7月1日にかけて大涌谷において水蒸気噴火が発生したが,その際のALOS-2/PALSAR-2の観測では,大涌谷から南東方向に約1 kmの範囲で地表面変位が得られた(Doke et al., 2018)。この変位は,NW-SE走向のクラックの開口と,その下に分布し周辺エリアの沈降を説明するシルの収縮によって説明がされる。推定された開口クラックの位置は,地表で地形的に認識できる火口列の直下にあたり,過去の噴火では,おなじクラックを通じて熱水が地表に噴出したことが示唆される。また,このクラック沿いの地表には,過去の水蒸気噴火の火口とされる凹地(小林ほか,2006;小林,2008)が存在し,同クラックの開口が繰り返し水蒸気噴火を引き起こしていると考えられる。さらに,箱根火山の中央火口丘には,これ以外のNW-SE走向の火口列が複数分布しており,それらの地下においても同様の構造の存在が示唆される。

3. ALOS/PALSARによる2006〜2011 年の変位
 ALOS/PALSARの干渉SAR時系列解析(SBAS法)では,大涌谷西側で定常的な沈降現象が確認された(Doke et al., 2020)。2.5次元解析の結果から推定される沈降速度は25 mm/yrであった。この沈降は標高700 m(深さ300 m)における茂木モデル(年間約1万m3の収縮)にて説明される。この様な収縮の存在は,深さや挙動が異なるものの,2015年活動時の蒸気ポケットの様な構造が地下に複数分布していることを示唆している。

 以上の結果から,箱根火山浅部の熱水系の構造は,長さ数100 m〜数kmの北西―南東~西北西―東南東走向のクラック状の流体の供給経路と,深さ数100 m に分布するポケット状の流体溜まりによって特徴付けられ,それらが複数分布しているものと推定される。

謝辞
本研究で使用したALOS/PALSAR及びALOS-2/PALSAR-2データは,火山噴火予知連絡会衛星解析グループを通してJAXAよりご提供頂きました.原初データの所有権は, ALOS/PALSARについてはJAXA及び経済産業省,ALOS-2/PALSAR-2についてはJAXAにあります.ここに記して感謝します.

文献
Doke et al. (2018) Earth, Planets and Space, 70, 63.
Doke et al. (2020) Remote Sensing, 12, 2842.
小林(2008)神奈川県立博物館調査研究報告(自然),13,43-60.
小林ほか(2006)火山,51,245-256.
Kobayashi et al. (2018) Earth and Planetary Science Letters, 491, 244-254.
Mannen et al. (2019) Earth, Planets and Space, 71, 135.