日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC29] 火山の熱水系

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.13

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)、大場 武(東海大学理学部化学科)

17:15 〜 18:30

[SVC29-P04] 草津白根山東麓源泉「万代鉱」のふっ化物イオンの濃度変化と火山活動との関係

*山本 春香1、木川田 喜一2 (1.上智大学大学院博士後期課程理工学研究科理工学専攻化学領域、2.上智大学理工学部)

キーワード:ふっ化物イオン、草津白根山、火山熱水系、火山性流体、温泉、活動的火口湖

水蒸気噴火ではその予兆と見なせるような明瞭な地震活動や地殻変動などが観測されないことがある。そのため、熱水卓越型火山においては物理学的観測だけでなく、噴気や湧水などを対象とした化学的観測も重要となる。活動的火口湖や火山性の温泉水には火山ガスのHClやHFに由来する塩化物イオンやふっ化物イオンが溶存し、その溶存濃度や濃度比は火山活動の指標としてよく用いられる。特にHFはケイ酸塩を主とする岩石とよく反応し岩石中に取り込まれやすいため、火山性熱水中のふっ化物イオンの濃度上昇は、塩化物イオンの濃度上昇よりさらに火山活動を顕著に示す指標となりえる

一方で、ふっ化物イオンはその強い錯形成能のため、イオンクロマトグラフやイオン選択性電極などによる直接定量では誤った結果を与えてしまう可能性がある。そのため、ふっ化物イオンと錯生成する金属イオンを高濃度に含む火山性熱水においては、ふっ化物イオンの定量に先立ち蒸留によりふっ化物イオンを単離することが必須である。例えば、試料溶液中のふっ素をフルオロシランとして遊離・回収するトリメチルシリル化蒸留法1)が知られている。しかし、蒸留操作は手間と時間がかかるため、ふっ化物イオンの定量は行われないことが多い。そこで本研究では、試料溶液に錯形成剤を加えた全イオン強度調整剤を加えるのみで,蒸留なしにふっ化物イオンをイオン選択性電極で直接定量する簡易定量法を検討し、その確度、精度ともに実用に耐えることを確認した。その上で、本研究室に保管してある草津白根火山の火口湖湯釜の湖水と本白根山東麓に位置する万代鉱源泉の試料水に同法を適用し、過去数十年のふっ化物イオン濃度の推移と火山活動との関連性について精査した。

草津白根山は白根山、本白根山、逢ノ峰の3つの火砕丘から成る火山で、2018年1月には本白根山で水蒸気爆発が起きた。本白根山の東麓側山腹に位置する万代鉱のふっ化物イオン濃度は2012年から2017年まで緩やかに濃度上昇し、本白根山の噴火後には顕著に濃度が上昇した。その後も細かな濃度増減を繰り返しながら高い濃度で推移し、2020年に入ってからも依然として高い濃度を保っている。同じハロゲンである塩化物イオンの場合、2012年から2017年にかけて緩やかな濃度上昇は同様に見られるが、ふっ化物イオンとは異なり本白根山の噴火直後の濃度上昇は見られず、その後も小さな濃度上昇は見られなかった。
一方、白根山の火口湖湯釜では、ふっ化物イオン、塩化物イオンの何れも2014年から2016年にかけて濃度が上昇し、それ以降は低下傾向に転じた。2018年1月の本白根山での噴火直後に万代鉱のような顕著な濃度上昇はなく、同年6月頃から濃度が上昇し始めた。その後の濃度は上下動を繰り返しながら高い値で推移している。F/Clモル比も同様に2018年6月頃から9月頃にかけて顕著に上昇し、以降高いままで推移している。

湯釜付近では本白根山での噴火後、断続的に地震活動や山体膨張が観測されており、湯釜や万代鉱のふっ化物イオン濃度の上下動はこれらの火山活動の後を追うように起きている。ただし2018年1月の本白根山の噴火直後のふっ化物イオン濃度の変化は万代鉱ではみられるのに対し、湯釜ではみられない。ふっ化物イオン濃度の変化から、湯釜は白根山山頂域の地下浅部での火山活動を反映するのに対して、本白根山の東麓に位置する万代鉱では草津白根山全体あるいは湯釜には現れない本白根山の活動を反映しているのではないかと推察される。万代鉱と湯釜とではハロゲン化物イオン濃度に異なる変化が見られることから、今後においてもその変化の様子に注視したい。

1)Tsuchiya et al. (1985) Separation of microamounts of fluoride coexisting with large amounts of aluminum and silica by improved trimethylsilylating distillation. Analytica Chimica Acta 176, 151-159.