日本地球惑星科学連合2021年大会

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[U-02] 2011年東北地方太平洋沖地震から10年―地球科学の到達点

2021年5月31日(月) 15:30 〜 17:00 Ch.01 (Zoom会場01)

コンビーナ:日野 亮太(東北大学大学院理学研究科)、藤倉 克則(海洋研究開発機構 地球環境部門)、木戸 元之(東北大学 災害科学国際研究所)、座長:藤倉 克則(海洋研究開発機構 地球環境部門)、日野 亮太(東北大学大学院理学研究科)

15:48 〜 16:06

[U02-07] 地震動と津波の即時予測:最近10年の研究の進展

★招待講演

*干場 充之1、対馬 弘晃1 (1.気象研究所)

キーワード:地震動即時予測、津波即時予測、緊急地震速報、津波警報、東北地方太平洋沖地震、研究の進展

2011年に発生したマグニチュード(以下,M)9.0の東北地方太平洋沖地震では,緊急地震速報は東北地方に対して強く揺れ始める15秒以上前に警報を発し,想定していた機能を発揮した.ただし,関東地方に対しては,震度を過小予測した.これは,数百kmに及ぶ震源域を適切に評価できなかったためである.また,活発な余震活動のため,複数同時に起こった余震を適切に分離することが出来ずに過大な警報を出すことが起こった.一方,津波については,当初推定されたM7.9に基づき,地震後3分で警報第1報目を発したが,予想される津波の高さは過小だった.その後,沖合のGPS波浪計による津波観測に基づき,速やかに警報を更新したが,より沖合の海底水圧計は警報更新に活用できなかった.
 これらの経験を踏まえ,最近10年に進展した地震動と津波の即時予測の研究についてレビューするとともに,気象庁での取組について紹介する.
 Mの過小評価については,(従来よりも)長周期の地震波を活用することや,(GPSに代表される)GNSSを解析する研究が進んだ.大地震のMを正確に推定するには長周期の地震波の解析が重要である.従来型の地震計は長周期を捉えることは苦手である.長周期まで捉えられる地震計の活用や,さらには,振り切れることなく永久変位も測定可能なGNSSを用いる研究がなされている(Kawamoto et al, 2017).
 このリアルタイムGNSSをはじめ,震源位置や震源域やMなどの震源情報を迅速,正確,そしてロバストに推定する研究が進んだ.この考え方は,source-basedアルゴリズムと呼ばれる.震源域の即時推定については,強震動域のパターン認識の技術が試みられている(Bose et al, 2017).この方法は,米国版の緊急地震速報(ShakeAlert)への適用が検討されている.複数同時多発に関しては,震源決定に,従来の地震波着信時の情報に加えて,振幅情報も用いる研究が行われた(溜渕・他,2014;IPF法).振幅情報も加えることで,揺れが弱いところに震源位置を決めてしまう誤りを軽減できる.
 Source-basedアルゴリズムに対して,(震源情報ではなく)現時点の波動場を即時推定し,そこから,物理法則を用いて未来の波動場を予測する研究が始まった(Hoshiba and Aoki, 2015)(Wavefield-based又はground-motion-basedアルゴリズムと呼ばれる).震源情報に依存しないため,広い震源域であっても,複数同時発生であっても対応可能である.一方,密な観測網が必要である.
 そして,最近10年間で興味深いのはスマホの活用である.スマホの中には加速度センサーが入っており,これを地震計とすることで,地震観測,データ転送,さらには警報受信を実現する.スマホを固定しているもの,あるいは,アプリをダウンロードするものがあり,後者は仮想的な稠密観測網を狙っている(Kong et al., 2020).特に発展途上国において多くのダウンロードがあるとのことである.
 津波に関しては,東北地方太平洋沖地震後に,稠密な海底観測網が日本近海に整備された.同観測網の海底水圧計では,津波を迅速かつ直接観測できる.これらのデータを用いて,津波波源(Tsushima et al., 2009; tFISH)や,現時点の津波波動場(Maeda et al., 2015)を即時に推定し,津波を予測する手法の開発が飛躍的に進んだ.また,海洋レーダによる面的な津波検知(Fuji and Hinata, 2017)や,船舶のGNSSを活用した津波予測(Inazu et al., 2016)など,様々な観測技術を予測に応用する研究も進んだ.
 気象庁は,同時多発への対応としてIPF法を2016年に,震源域の広がりの対策としてPLUM法(Wavefield-basedアルゴリズムの簡易的な適用手法)を2018年に導入した.PLUM法は,過小予測(いわゆる“見逃し”)の軽減にも貢献している.ハード面では,海底地震計網(気象庁のものや,防災科研が運用するDONETやS-net)や,南関東の防災科研KiK-netの深井戸(500~3,500m)の記録が活用され始めた.迅速化に結び付いている.
津波警報の改善としては,Mの過小推定の可能性を速やかに判定するための長周期地震波の解析(Katsumata et al., 2013)が導入された.また,沖合津波観測の活用として,稠密海底水圧データの監視が2016年に,tFISHの活用が2019年に開始された.