日本地球惑星科学連合2021年大会

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[U-10] 知の創造の価値とは何か:社会の負託に対する認識と説明責任

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.01

コンビーナ:島村 道代(海洋研究開発機構)、Brooks Hanson(American Geophysical Union)、山中 康裕(北海道大学大学院地球環境科学研究院統合環境科学部門)、末広 潔(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

17:15 〜 18:30

[U10-P01] 研究とその評価に対する研究者の認識:JpGUとAGUコミュニティーの比較

*山中 康裕1、島村 道代2、末広 潔2、Hanson Brooks3 (1.北海道大学大学院地球環境科学研究院統合環境科学部門、2.海洋研究開発機構、3.米国地球物理学連合)

キーワード:インスティテューショナル・リサーチ(IR)、インパクトファクター (IF)、論文崇拝主義、知の創造、科学と研究者の理想

我々は,素朴な疑問「どのような研究が良いと思う?研究費をもらえるのはなぜ?」に対し,個人的な経験に基づいて答えられるかもしれないが、研究者コミュニティーの意見としてのデータに基づいて答えられない。研究者の理想やその議論が無いままに、被引用数や雑誌インパクトファクター(JIF)等の定量化できたものを安易に評価指標としてきたことで、我々自身の評価に対して歪みが生じている。高い評価指標を得た論文を書いた研究者やそのような研究者が多く所属する組織になれば、国から配分される研究費も増えると信じられる状況が生まれつつある(論文崇拝主義と名付ける).

しかし、「そのような状況=社会への貢献」となるのだろうか?研究者自身の根源的認識を問うことから始めて、研究者コミュニティー自らが、自らの認識に基づき、自らの活動を評価する指標を作り(研究者の研究者による研究者のための指標づくり)、社会に対する説明責任を果たしていく必要があるだろう.

その第一歩として、地球惑星科学コミュニティーメンバーがどのような現状認識しているかについて明らかにするため、JpGU会員に対して6月11日と28日JpGUメーリングリストを通じて約6,000人に、AGU会員に対して11月15日と20日AGUメーリングリストを通じて約38,000人に通知し、それぞれ292人(4.9%)、883人(2.3%)の有効回答を得た。JpGUコミュニティーに対する結果は、最新のJapan Geoscience Letters(JGL)に報告した(Yamanaka, 2021)。

地球惑星科学に限らない一般的な科学に関する6つの項目に対して、知の創造として重要と思う順序を付けてもらった。それらはトレードオフの関係にある3つの組「発見することvs. 精緻/体系化すること(Set A)」「人類の知的好奇心に答えるvs. 社会の負託に応えること(Set B)」「完璧度を重視したものvs. 速報性を重視したもの(Set C)」から構成されている(表1).JpGUとAGUコミュニティーは、発見や好奇心が1,2位、タイムリーや完璧が5,6位という点は同じだが、JpGUコミュニティーは、Set BではAGUコミュニティーに比べ社会的責任が低い順位、Set Cではタイムリーや完璧は同じような順位になっている。

地球惑星科学の知の創造に対する貢献しても6項目の設問をした。それらは,一般的によく取りあげられる2項目「地球惑星の成り立ちを明らかにすること」,「地球惑星の現在を理解すること」,および,欧州地球科学連合(EGU)や米国地球物理学連合(AGU)等とともに,JpGUが2020年5月4日に署名した「グローバル社会の課題に対応するための地球科学的知見の重要性」に関する共同宣言で謳われた4項目である(表2).共同宣言で謳われた4項目は,JpGUコミュニティーでは、最初の2項目ほど,知の創造に対する貢献とは思っていない結果を得た一方、AGUでは、2項目もほぼ同等と思っている結果を得た。特に、この4項目に対して、AGUコミュニティーの2015年以降の学位取得者や大学院生が1/2から2/3がStrongly Agreeと回答した一方、JpGUコミュニティーの同年代は1/4から1/3がStrongly Agreeと回答したことが大きな違いとなっている。

JIFなどの研究業績を用いていることについては、両コミュニティーはほぼ同様な傾向だったが、研究申請書に載せる論文を選ぶ際に、雑誌のIFを参考にするかどうかの設問に対しては、JpGUコミュニティーでは40%の回答者が気にしているのに対して、AGUコミュニティーでは12%に留まった。これは、研究申請書の質・量の違いを反映している可能性がある。